昔話改悪シリーズ「ゆきの恩返し」⑥
そして、暗転。どうやら、ここで終幕らしい。ふう、とやり切った感を見せつけてくるかのように、舞台に立っていたキャストたちが裏からぞろぞろと出てきた。
「どうだったかな、二取さん。いちおう、これで練習しようと思うんだけど」
「慣れないから、さん付けで呼ぶのやめてって言ったよね。……っていうか、いちいち止めずにぶっ通しで見ていたけどさ。ひとつ良いかな、三沢なつ」
「お。プロデューサー直々に感想くれるの? 昔話を現代風にアレンジしてみたんだけど。ひとまず、ポピュラーな『鶴の恩返し』を題材に選んでみたよぅ」
現代版の鶴の恩返し、だって? 三沢なつにそう言われても、いまいちピンと来なかった。ツッコミどころは多々あったが、まずは声を大にして言いたいことがある。
「なんなんだよ、これは。こんなの、幼稚園で発表なんかしたら出禁どころか、街で村八分に遭っちゃうだろ! だいたい客層が幼稚園児だって知らないのか。高校生に見せるんじゃあるまいし、そもそもお色気シーンなんか要らないんだよ!」
「えっ、お色気シーン? そんなのあったっけ?」
「いちばん最初のほうにあったよ。女子高校生が濡れた制服で、バカップルの家を訪れるシーンだよ。作品内では特に言及されていないけど、明らかに不必要だろ!」
「あー。そういえば、あったね。そんなシーン。雄二だけじゃなくて舞台裏の男子たちがちらちらゆきのほうを見ていたから、なにごとかと思っていたけど」
「途中で気付いてタオルを貸してあげたのはファインプレーだけど、劇の舞台でボクのゆきを辱めないでくれるかな。このシナリオを書いたのはきみか、三沢なつ」
「ううん。わたしは原作で言うところのおばあさん役だよぅ。シナリオはあなたが愛してやまないゆきが手掛けたんだよ。主役兼脚本家ってところかな」
そんなバカな。ゆきが自らを貶めるような演出をするなんて。あり得ない。天地がひっくり返るようなことがあっても、ゆきだけは純粋で居てくれると思ったのに。
「……ゆき。三沢なつが言っていたのは、ほんとなの?」
「ええ、まあ。少しでも少子高齢化に貢献しないと、と思って」
「だとしても、だよ。ゆきが身体を張ることはないんだよ。そういうのは、指ちゅぱ変態女にでも任せておけばいいんだから! そうだろ、寝取られ願望ありあまり女」
「ひどい言われようだよぅ……っていうか、なんで二取さんが指ちゅぱの件を知っているの! ……さては、ゆき! このだるんだるんおっぱいボーイッシュに吹き込んだでしょ! ひどいよ、あれはわたしたちだけの秘密にしようって言ったじゃん!」
嬉々として頷くゆき。その笑顔、高得点。可愛い。さすがはゆき。大好き。
一方で三沢なつは、語呂が悪いので減点。そもそも、だるんだるんじゃないし。そこまで大きくないし。ちゃんとさらし巻いているし。なめんなよ、このやろ。
っていうか、さらしを巻いていても三沢なつよりも大きいってすごくない? まあ、それだけ男の気持ち悪い視線を浴びるんだけど。……はあ、サイアク。汗ばんできたし、重いし、肩凝るし。巨乳ってホント、いいことないな。マイナスしかない。
そういう意味では、三沢なつのことを羨ましいと思う。……いや、胸だけで価値を図るなど言語道断だ。前言撤回。それではあいつらと同レベルなので、三沢なつのことはなんとも思っていない。ことにする。ただのゆきの友だちだ、こいつは。
「あー、もう。うるさいな。脳内でめちゃくちゃにするぞ、てめー」
「脳内なら良いよ。わたしもゆーじにひどいことしているし」
「惚気んな。ラブホリックめ。根絶やしにしてやろうか?」
「ラブホ……? ちょっ、二取さん。大声でそんなこと言っちゃダメだよ~」
ああ、もう、こいつ。ぶん殴りたい。こねくり回してやろうかとも思ったけど、場の空気を乱してしまってはプロデューサーとしての権威や沽券に関わる。
とりあえず、台本についてはゆきに直してもらうとして、大まかなところはよくできている。さすがゆき。ぎゅってしたい。カップル役にボクとゆきでもいいけどね。
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