昔話改悪シリーズ「ゆきの恩返し」①

「ゆーじ。おしごとは終わった?」


「うん。終わったよ。そういうなつは?」


「わたしも終わったよぅ。じゃあ、一緒にごろごろしよ?」


 僕の手を引き、猫みたいに甘えてくるなつ。少し頬を赤らめ、気恥ずかしそうにはにかむのがなんか良い。他人の目を気にしない、無自覚な言動がまた可愛らしい。


 とりあえず、添い寝するには外がまだ明るい時間帯だ。お昼寝をするような頃合いでもないので、ひとまずソファに腰掛ける。眠いけど、いまは寝ちゃいけない。


「うんしょ……。えへへ、特等席もーらい♪」


「なつ……!? 隣が空いているんだから、そっち座ってよ……」


「えー? 良いじゃん。わたしたち、恋人なんだから。……わたし、重い?」


「い、いや。そんなことはないけど。むしろ軽い、かな。ちゃんと食べてるの?」


 それなりの重量感で、なつが僕をソファ代わりにしてきた。なつが僕の意表を突いた攻めをしてきたので少し焦ったが、甘い時間は止まることなく流れている。


「あ。雨降ってきた。洗濯物取り込まなきゃ! ゆーじ、ちょっと行ってくるね!」


 窓の外を見ると、既に目視でも分かる量の水滴が張り付いていた。ゲリラ豪雨というやつに近い。そういえば、近々ニュースで雨が降るって言っていたっけ。


 なつが僕の元を離れる温もりの名残惜しさを噛み締めていると、ふいに――ピンポーン、とドアのチャイムが鳴った。こんな時間に来客か? なつの荷物かな。


「はーい、いま行きまーす」


 玄関まで小走りで急ぐ。外はあいにくの雨なので、待たせてしまうのも悪い。宗教の勧誘とかだったら嫌だな、と思いながらも玄関のドアをきい、と開ける。


「あの……こんな時間にすみません。ひと晩泊めてもらえるかしら?」


「……え?」


 宗教の勧誘ではなかったのが、唯一の救い。――だけど。


 うまく思考が追いつかない。来客はどこかの高校の制服を着ていた。雨にすっかり濡れた女子高校生がひとり、ぽつんと立っている。……なにごと?


 しかも、濡れた制服が彼女のしなやかな身体に張り付いていて、その……下着が透けてしまっている。見てはいけない禁断領域なのだけど、つい性で見てしまう。


「ゆーじ? ピンポンが鳴ったみたいだけどなんだったの~? ……って、え? その子、どうしたの?」


 洗濯物を取り込み終えたであろう、なつが部屋の奥から顔だけを出して言う。助かった。視線をそのままなつのほうへと向ける。お願い、なつ。こっちに来てほしい。


「ぼ、僕にもよく分からないよ。ひと晩泊めてほしいんだってさ」


 女子高校生は、それ以外に何かを話そうとせず、クチを固く閉ざしている。家出の類だろうか。きっと、親とケンカになって突発的に家を飛び出したはいいが、雨が降ってきたので、近くにあった手頃な家――つまり、ここ――に転がり込んだのだ。


 なつが心配そうな顔で、僕と女子高校生の前に、ゆっくりとやってくる。


「雨宿りとかではなく? 泊めてほしいの?」


「……ええ。どうかお願い。ひと晩だけでも良いから、泊めてもらえないかしら。やってほしいことがあるなら、なんでもするわっ!」


「なんでも、ねえ。ゆーじが独り身だったら、よくあるえっちなバナー広告みたいな展開にでもなっていたんだろうけど、残念だったね。雄二にはわたしが居るから!」


「いや、その。そういうのはさすがに。身体を張り過ぎているのはNGで……」


 名前も知らない女の子と血を交わし合うのは、ちょっと気が引ける。それに、なつと同棲している手前、ほかの女の子を家に上げるのは、どうなんだろう。


 泊めてあげようかどうか逡巡していると、なつが持っていたタオルを女子高校生に差し出し、


「とりあえず、上がりなよ。濡れたままだと風邪も引くし、お風呂にも入らないとね。それに、さっきからちらちら、雄二があなたのブラ透けを、鼻の下伸ばして拝んでいるし」


「……えっ? あ、ほんとだ。あたしの、見えてる」


「ちょ、ちょっと。言いがかりはやめてよ。そんなに長くは見てな……あっ」


 自爆。両名から冷たい目で睨まれてしまうが、これは仕方ない。僕にもちゃんとオスの面があるのだから。僕だけじゃなくてみんなも見るでしょ。……たぶん。

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