もしも雄二の言動が二取そのものだったら⑤

「あっ……ゆ、雄二? 図書委員の仕事は終わったの?」


 教室に入ってきて、そのまま三沢なつはおそるおそる僕らの近くへやってきて、のうのうと話しかけてきた。間男……壱河賢一も連れて。いまさら、なんの用だ。


「図書委員の仕事? そんなの、ないけれど……あっ、ごめんなさい」


「なかったの? ……じゃあ、わたしと一緒に登校したくなかったってこと?」


 五反田ゆきに後ろから刺されることは想定していなかった。……いや、三沢なつに嘘を吐いていたことを伝え忘れたボクが悪いか。内心でため息を吐く。


 涙交じりのうるんだ瞳で、三沢なつがこちらを見つめてくる。脳みそが下半身に移転している肉欲猿が、彼女を可愛いと思うくらいには媚びた目をしていた。


「……そんな安っぽい泣き落としが通用するとでも? だいたい、昨日の今日でよくも、ボクの顔を見れるね。学び舎を穢す俗物の分際で。恥ずかしいと思わないの?」


「え、えっと。ゆーじ……そのことなんだけど、ゆーじは誤解しているよ。わたしは賢一くんなんかにそういう破廉恥なことはしていないし、これからもしないよっ!」


「ひどい言われようだが、今回に至っては、まったくその通りだ。雄二、お前は誤解している。傍から見れば、三沢のあれは疚しいことに思えるが、適切な処置だった」


 ふたり揃って何を言っているんだ、と思ったが、直後に見せられた壱河賢一の指に貼ってある絆創膏を見て気付く。――これは、三沢なつが好んで使っているやつだ。


「……いや、出まかせだ。だって、ボクは見たんだ。三沢なつが壱河賢一の男性器に夢中になっているところをね。廊下からでも、ちゅぱちゅぱ聞こえていたし」


「話に聞いたことがあるわ。エロゲ声優がちゅぱ音を出すときに、自分の指をしゃぶってそういう音を出すって。なつはそのことを言っているんじゃないかしら?」


「五反田さんは黙ってて。このムードにそういう、ふざけたやつ要らないから」


 しゅんとする五反田さん。強く言い過ぎたかもしれないが、これは明らかに五反田さんが悪い。相談まがいの話に付き合ってくれたことには感謝こそしているものの、シリアスな雰囲気でふざけるのはベクトルが違うし、何より許容できない。


「なんで賢一くんのお〇〇ちんなんか舐めないといけないの。お金を積まれても無理だよぅ。そういうのは好きなヒトとじゃないと、シちゃいけないんだからっ!」


「三沢が舐めていたのは、その……オレの指だよ。身長差的にエロいことしているように見えるかもだが、真実はそうじゃない。三沢は懸命に治療してくれたんだ」


 重箱の隅を突いてやりたくなったが、真剣な声色と表情で、それが嘘ではないことを悟る。三沢なつは小学校の頃から保健委員を務めていた。1年生の頃からずっと。


 彼女が保健委員のガチ勢であることは知っていた。腐っても幼なじみだから。怪我をしているヒトが居たら、慈愛にあふれた心で、迷いなく治療するだろう。

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