もしも雄二の言動が二取そのものだったら③

「……なあ、三沢。もしかしたら、なんだけどよ。昨日のあれ、雄二に見られていたってことはないか?」


「昨日のあれ……? なんか、したっけ?」


「覚えていないのか? ほら、これだよ、これ」


 そう言って、賢一くんは自分の指に巻かれている絆創膏を見せてきた。あれは、わたしが昨日貼ってあげたやつだ。……というか、なんで替えていないの。汚いよぅ。


「あー。賢一くんがバカなことをしてケガしたあれね。それがどうかしたの?」


「だから。それを雄二が見てしまったんじゃないのか?」


「んー? 雄二が見たからって、なんでそれで雄二が怒るの?」


 もしかして、雄二もケガをしていた、とか? でもそれで怒るのが分からない。雄二はそんなに意味不明なタイミングで感情が爆発するようなヒトじゃない、はず。


「説明しづらいな……えっと、オレがケガをして三沢が治療してくれただろ?」


「うん。保健委員だからっていうのもあるけど、ちょうど絆創膏も持っていたしね」


「ああ。そこまでは良いよな?」


 再び頷く。いっぱしの保健委員とあれど、ケガをしているヒトが居たら誰であっても治療に当たるのが一流だと、保健医の先生も豪語なさっていたし。わたしは当然のことをしたと思っているけど、雄二はそれが嫌だったの? どうして?


「あのとき、消毒液がなくって、まともな消毒ができなかったよな」


「うん。さすがにそこまで準備は万全じゃなかったね。わたしもプロ意識が足りなかったよぅ。治療するなら絆創膏とか、包帯とか、ガーゼとかだけじゃできないよね」


「ああ、いや。別にそのことを責めている訳じゃないんだ。ただ、三沢はあのとき消毒液の代わりに使ったものがあるよな。たぶん、そのことで雄二は怒っているんだ」


「消毒液の代わりに使ったものかあ。……うーん。あっ、唾液?」


「そう、それ。唾液をどうやって使った?」


 賢一くんがなんか、謎解き形式で押し問答みたいなことをしているのには何か理由があるのかな。ミステリものの探偵にでも憧れが? どうせ暇だから相手するけど。


「んーと、指をアイスキャンディみたいにぺろぺろして、全体的にねぶったかな。ちょっとやり過ぎちゃった? 賢一くん、頬赤らめて恥ずかしがっていたもんね♪」


「当たり前だろ。女の子にそんなことされたら、男は誰だって……!」


「あはは。年頃の男の子をからかうのは楽しいなあ。――まあ、でもわたしもちょっと恥ずかしかったんだからね。あんなこと、消毒液があったらしないし」


 いま冷静に考えてみると、あれは素直に指ぺろのレベルを超越していた気がする。傍から見たら、えっちなことしている風にしか見えなかっただろうし……あ。


「……うう。胸が痛いよぅ。自分の愚かさに気付くのが遅かった、かも」


「あー、よかった。ようやく分かってくれたか。たぶん、そういうことだ。雄二が怒っていたのは。オレたちをフルネームで呼ぶくらいだからな。激怒しているぞ」


「うわあ……どうしよ。ぜったい雄二、勘違いしているよね。わたしと賢一くんがそういう、ふしだらな関係だってこと。ぜんぜんタイプじゃないのに。むしろ嫌だし」


「そういうこと言うなよ、本人の前で。傷つくだろ。これでもいちおう、クラスの女子からは王子さまって言われているんだぜ。たぶんな」


 賢一くんがイケメンということに否定はしない。でもわたしのタイプじゃない。目を見て言える。わたしが好きなのは、最初から彼だけだもん。関係が修復できるかどうかは分からないけど、謝ったら許してくれるかな。泣いたら許されないかなあ。


 ……でも、どうだろ。雄二ってば、昔から勘違いが凄いからなあ。

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