もしも雄二の言動が二取そのものだったら②

「――雄二? それに、賢一くんまで。ふたりとも、どうしたの? こんな道の真ん中で立ち往生なんかしちゃって」


「み、三沢か。いや、なに。ちょっとした雑談をだな……」


「……三沢なつ。いよいよ、お出ましか」


 壱河賢一と三沢なつ。このふたりが揃うと、ボクは条件反射で昨日の放課後の、サイアクな光景を頭のなかに浮かべてしまう。あの、忌まわしき記憶を――。


 たとえば、メタル系に遭遇したら魔神斬りをするように。たとえば、道端に落ちている小石を蹴るように。たとえば、男女が笑い合っていたら恋人と思い込むように。


「お出まし、って……雄二がいつもの待ち合わせ場所に居なかったからじゃん! わざわざ引き返して雄二の家に行ったら、もう家を出てるって言われて、それで……」


「あー。そういえば、今日は図書委員の仕事で早く行くことになっていたんだった。伝えるのを忘れていたのかも。スマートフォンも忘れてきちゃったし」


 息をするように嘘を吐く。どちらも同じようなものだ。だから罪悪感はない。あんなことをしておいて、平然としているほうがどうかしている。――この、獣め。


 ふたりの顔は見たくない。それは本心だ。見るところがなくなって、代わりに賢一の手に視線を預ける。人差し指にウサギの絆創膏が貼ってあった。腐れ落ちろ。


「それならそうと、どうして言ってくれなかったの。急いで走ってきちゃったから、朝ご飯がペースト状になって出てきそうだよぅ。うぷ……」


「なら、手を突っ込んで楽にしてあげようか? 幼なじみの由縁で」


「そっ、そんなことしなくていいから……っ! 出すよりかは出さないほうが良いし! それに、わたし。女の子なんだよ? 人前で吐くなんて……っ」


 ふざけたことを抜かすね、このメスは。吐いたものを見られるよりも恥ずかしいことをしていた分際で、何を言っているんだ。お前も異世界転生して、いなくなれ。


「おいおい。ずいぶんとひどいことを言うじゃないか、雄二。幼なじみなんだろ?」


「あはは。面白いことを言うね、壱河賢一。そういうきみこそ、三沢なつは大切な存在じゃないのか? ひどいことを言われた自覚があるなら、守ってあげるべきだろ」


 吐き捨てて、その場を去る。同じ空気を吸っているという事実だけで、それこそ口からペースト状の朝ご飯が出てきそうだ。もうなんか、不快すぎて堪えられない。


 世界がやけに色褪せて見える。昨日までは緑に茂っていた木々も、いまではモノクロに映っている。味気なくてつまらない。付け合わせの世界。――ああ、退屈だ。


 全速力のダッシュで駆け抜ける。ボクにはもう何も残っていない。空っぽだ。ふいに、空を見上げてみる。灰色の空。雲ひとつないのに、やはりなんにもなかった。




   *




「お、おい! ……行っちまったよ。そんなに急ぎなのか、図書委員の仕事って」


「わかんない……。でも、ひとつ言えるのは、雄二をものすごく怒らせちゃったってことだよね。原因は分からないけど」

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