第27*話
「やっと帰れる~! ねえねえ、ゆき、ほたる! いま流行りのタピオカおでん食べに行こ~!」
「行きたいのは山々なのだけれど、あたし、今日は司書さんの手伝いがあるから」
「えー。図書委員って意外と肉体派なんだね。もっとのんびりしているかと」
ほとんど恙なく放課後となったところで、かなたからの嬉しいお誘いを受けたが、今日はあいにく先約がある。そちらを断ってしまってもいいけれど、誰からのものか分からないので、返事をしにくい。無視するのはさすがに罪悪感が……。
「……じゃあ、ほたる。せっかくだし、久しぶりにふたりきりで行こ? デートだよ、デート! 奢ってあげるからさ~。ね?」
「あー。ごめんね、かなた。ワタシもちょっと用事があって行けないの」
「ふたりしてまじぃ⁉ ……でもまあ、用事なら仕方ないか。タピオカおでんはまた明日にでもって感じで。あ、ゆきの手伝いでもしよっか? どうせ私暇だし」
*
ゆきとかなたとはそこで別れ、ワタシはそのまま図書室へと向かう。オレンジ色の爽やかな斜陽が眩しく思えるノスタルジックな廊下を、やけに重い足取りで。
「…………?」
気のせいだろうか。妙に視線を感じる。道行く人々にいちいち不快感を覚える。どうせ、これのせいだろう。目線を落とし、歩くスピードを徐々に上げていく。
ようやく図書室に差し掛かったところで、静かにドアを開ける。室内には数名の生徒が居るようだった。いずれも男子生徒で、女子生徒はワタシ以外には居ない。
――あれ、おかしいな。こういうシチュエーションってふつう、ひとりじゃない?
『……よく来たな、大崎さん。俺たちのこと、覚えているか?』
最初に口を開いたのは、体格の大きな男子生徒だった。横一列に並んでいて、真ん中に立っている。全員合わせて5人居る。でもワタシにはまったく見覚えがない。
「どなたですか……? それに、この人数は……?」
『そりゃあ、覚えていないよな。あんたにとっちゃあ、俺たちなんか有象無象だろうしな。なんなら、ここに居るヤツらはみんな、あんたに拒絶された人間だぜ?』
意味が分からなかった。思考停止気味の頭で考えようとしても、ノイズが混じる。
「……どういうこと、ですか? ワタシはただ、手紙で呼び出されただけで」
『察しが悪いねえ、大崎さん。あんなの、誘き出すための罠に決まってんじゃん。このご時世、ラブレターとかあり得ねーから』
そこでワタシはようやく、自分がピンチに陥っていることに気付いた。あの手紙は嘘っぱちのもので、さらに言うと、ワタシはゆきと間違われている、ということだ。
「いや、あの……ワタシ、ゆきじゃな――」
『だいたい、毎回手ひどく振るくせに、こういう手紙には素直に応じるのなんなんだよ。品定めしてんのかよ……この、性悪クソ女!』
「やっ、痛っ……!?」
不意に手首を掴まれ、声にならない悲鳴が漏れる。あまりに強い力で振り払うこともできず、ワタシは身体ごと無理やり引き寄せられてしまう。何もできない無力さに震えながら、ただひたすらに絶望する。
『女の子の華奢な身体……ははは、おい見ろよ。震えてやがるぜ。小鹿みたいで可愛いじゃねーか!』
『くっ、この……! 抵抗するなよ、ヤリづらくなるだろ……っ!』
『かよわい乙女が、複数人の男にチカラで勝てる訳ないだろ。さっさと諦めて俺たちの慰み者になっちまえ。ははは、恨むなら自分の八方美人ぶりを恨むんだな』
うすら笑いを浮かべた悪意の有象無象に、ワタシはまるで抵抗できないでいた。
何が起きているのか、理解できなかった。――ただ、それでも穢されていることだけは分かる。一方的に、かつ残虐に、蝕まれていく。心が。身体が。ワタシが。
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