壱河ゆりvs三沢なつ⑤

「……あのさ。わたし、重くない?」


「ぜんぜん。むしろ、ちょうどいいくらいだよ」


「ほんとに? ほんとに重くない?」


「大丈夫だってば。なんなら、なつはもう少し太ったほうが良いよ」


 なつのお腹をぷにっと抓む――とはいえ、お肉と呼ばれる柔らかいところはほとんどない――とたん、びっくりしたのか、僕の膝に座ったまま、ぴくんと跳ねた。


「きゃっ、女の子のお腹を触るなんてセクハラだよ、雄二!」


「え。ご、ごめん。そんなつもりは、なかったんだ」


 ただ、僕はなつの身体が心配で……いや、セクハラをする人の大半はたいてい、こうやって言い訳をするんだ。テレビで観た。僕がそうなったら、ダメじゃないか。


「うん? なんでわたしから離れようとするの?」


「お腹を抓むことがセクハラなら、なつが僕の上に乗っていることだって同じでしょ。仮にも僕らは男と女だし、こういうのはやっぱりカップルとかがするべきだ」


「いやいや、これは違うよっ! わたしが好きでこうしているだけだから!」


「ふーん……なつは僕を椅子としか思っていないんだね。そっか、そっか」


 悲しみの日本海。僕はなつのこと、幼なじみとして大切に思っていたのにな。これってたぶん、2番目の僕は誰からも愛されないってやつなんだろうな。ははっ。


「三沢。おまえ、雄二の幼なじみのくせに扱いが下手すぎるぞ。ガラスみたいに繊細なんだから丁重に扱えよな。それとも、おまえたちはただの腐れ縁か?」


「腐れ縁なんかじゃないよっ! 雄二はわたしの大切な――って何を言わせようとしているのっ! いくら賢一くんだからって、聞いちゃいけないことくらい……!」


「うるせー。耳元で大きな声を出すな。ほんの冗談に決まっているだろ」


 ふたりが何か言っているみたいだ。耳打ちで。僕には聞こえない。仲間外れにされている。やっぱりこれって、僕が彼らにとっての2番目だからかな。ははっ。


「っていうか、三沢。おまえ、雄二が置き去りになっていることに気付けよな」


「あ。えっと、雄二。冗談と賢一くんはさておき、お菓子でも食べよ?」


「部屋の主にひどい言い草だな、おい。俺のお小遣いから出てんだぞ、それ」


 まあ、2番目でもいいんだ。僕はこの空間に居られるだけで幸せなんだ。賢一やなつ、いろんな人が僕の周りに居て、幸福そうに笑ってくれれば、それで。


 ――と、最近まで本気で信じていた。だけど、いまの僕は違う。


「……うん、そうだね。賢一には悪いけど、お菓子パーティーとしゃれこもうか!」


「えへへ。レッツパーリーだねっ」


 なつの柔らかい笑顔に胸が満たされる感覚がする。2番目でいいなんて思わなくなったことと、なにか関係があるのだろうか。僕がそれを知るまで、あと数か月。

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