コンソメ・ラプソディ①

「さあ、入って入って。いま家にはあたししか居ないから!」


「相変わらず広い敷地だよな。この玄関に来るのに噴水もあったし」


「もう、ちょっとした公園だよね。あれで庭って言うんだから驚きだよっ」


 学校が休みのある日、僕らは五反田さんの家に御呼ばれした。ふつうの家ではない。歴史的建造物と見間違えるほどに荘厳な雰囲気を漂わせている、古風な屋敷。


 賢一が言うように、五反田さんが待ち構えている玄関に至るまで、さまざまな道程を経ていた。たとえば、鯉が飼われている池。たとえば、灯篭だらけの石畳の道。


 どの個所もいちいち高級感があって、うかつに近づけない趣きがあった。だから決して、なつと賢一が鯉を覗き合ったり、灯篭をべたべた触っていたりしていない。


「そういえば、廿六木さんは? お休み?」


「そんなところ。あたしの世話もせずに、どこぞのメスとデートよ」


「えっ、廿六木さん、カノジョ居るの!? 密かに狙っていたのに……っ」


「相手は誰なんだ? あんなイケメンをゲットしたのは?」


「あたしの姉よ。独立したはずなのに、最近家に居座り付いているの」


 ため息を吐いて肩を落とす五反田さん。明らかに落胆していて、声の掛け方が分からず、適当に話しかけてみる。


「五反田さん、お姉さんが居たんだ。てっきりひとりっ子なのだと思っていたよ」


「間違えたわ、ひとりっ子よ。あんなの、姉じゃないわ。同じ血が流れているとは思えないくらいだもの。この前なんか、あたしが大切にしていた時計を――」


 五反田さんがお姉さんに対する愚痴を言いかけて、口を閉じた。それからひとつ咳払いをし、「玄関で立ち話している時間はなかったわね」と扉を開けてくれた。


「ん~。良い匂い~。ゆきの家って畳の匂いがするよぅ。古き良き日本って感じ!」


「そうかしら? あたしはよく分からないけど、古臭いのってなんか嫌だわ」


 僕の家には畳がないから、五反田さんの家の空気を吸い込むだけで、なんだか新鮮な気分になる――って、口に出して言ったら、変な人みたいになっちゃうな。


「ええと、じゃあ。さっそく例のブツを見せてもらおうかなっ」


「それなら、地下室に用意しておいたわよ。男子ふたりも付いてきてね」


「当然だ。むしろ、今日はそのためだけに来たようなものだからな。ほら、雄二。さっさと運んで遊びに行くぞ。バッティングセンターとボウリングどっちがいい?」


「あはは……身体を動かすのはいいかな。休日だし、ふつうにまったりしたいよ」


 五反田さんに言われるがまま、あとをついていく。屋敷の地下室と聞くと核シェルターを想像してしまう。第3次世界大戦なるものが起きたら、彼女の家に避難するのもいいかもしれない。

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