壱河ゆりvs三沢なつ③
「あの、さ。ゆりちゃんはいつまでそこに居るの?」
「え。ゆりですか? ええと、もしかしてお邪魔ですか?」
「い、いや。そういう訳じゃないんだけど、雄二が迷惑だと思うんだよね」
「えっ、そうなの、雄二くん?」
急に話に介入させられて驚く。ゆりちゃんはいま、僕の膝の上でコントローラーを弄っている。僕らは宿題をすべて終わらせ、対戦ゲームで遊んでいる。
「僕はぜんぜん大丈夫だよ。さて、次のステージで決着をつけようか!」
「もう、くん付けで呼んでるし……このロリコン」
「それにしても、ゆりが雄二に懐くとは意外だな。俺にはそんななのに」
「なっ……そんなことはないです! 兄さんも、それに雄二くんも大好きですっ」
――大好き。その言葉を聞いたのはいつ以来だろう。胸を打たれたような気がして心臓がどくんと高鳴る。なんだかよく分からない感情が僕を支配する。なんだこれ。
「いいから、さっさと始めるよ! 場所は終点でいいよね!?」
「どうしたの、なつ。すごいやる気だね? さっきはいちばん負けていたのに」
「うるさい。ロリコンは黙ってて! ゆりちゃんには絶対に負けないからっ!」
「望むところです! 兄さんの友だちの方とはいえ、手加減はしませんからね?」
敵対心を燃え上がらせ、なつはいつになく勝気に満ち溢れている。ゲームの類はほとんど初心者なのに、僕や賢一が束になっても敵わなかったゆりちゃんに牙を剥くなんてどうかしている。そんなの、水を持たずに砂漠で遭難するようなものだ。
「よし。それなら、三沢とゆりのどちらかが優勝したら、雄二がどんなことでもしてあげるルールにしよう。そうすれば、盛り上がること間違いなしだろうぜ」
「どんなことでも……? ごくり」
「ふふ。腕が鳴ります! ゆりはアイテムなしでもいいですよ!」
「ちょっと待ってよ。そのルール、いったい僕になんの旨味が?」
「……で、オレが勝ったら、じゃんけんをして勝ったほうに権利を譲渡する」
賢一が僕を無視して変なルールを付け加えてくる。それなら、僕に考えがある。盛り上がることなら何をしてもいいのであれば、僕だって自分の優勝景品を――
「じゃあ、僕が勝ったら、みんなで宿題の残りを……」
「あ、雄二くんがフィールドから落ちました。残機ゼロですねっ」
「はっはっは! おい、いつまで話をしているんだ? もうここは戦場なんだぜ!?」
不意打ちとは卑怯な……なるほど。僕に景品などないと。つまりはみんな、そういうことを言いたいんだね? あんなに勉強を教えたのに労ってくれないんだね?
「なっ!? 一撃で吹き飛ばされただと?」
「なにしてんの、雄二! せっかく、ゆりちゃんをめちゃくちゃにしていたのに!」
「雄二くん、ありがとうございますっ! お陰さまで助かりましたっ」
中学時代に、この対戦ゲームの昔のやつに没頭し過ぎた甲斐があるってものだ。なつと賢一のキャラをものの数秒で残機ゼロにしてみせた。これであとはゆりちゃんだけ――
「えい! 油断しましたね、雄二くん。これは四人対戦なんですよ?」
「そ、そんな……ゆりちゃん!?」
なつと賢一と戦ったときに負ったダメージで、残機の多いゆりちゃんに敵うはずもなく、近付かれたとたんに必殺技を浴び、即死。暫定四位で景品なしが確定した。
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