EX02・壱河ゆりvs三沢なつ ほか

壱河ゆりvs三沢なつ①

「ここが賢一くんの家かあ。わたしの家よりちょっと大きいね!」


「いつも玄関で待っているときも思うけど、改めて見ても綺麗な家だよね」


「そんなに褒めるなよ。父さんが聞いていたら喜ぶだろっ」


 よく晴れた日の放課後に僕らは、賢一の家へと招かれた。宿題の量が膨大で、ひとりでやるには困難を極めるというので、どこか集まれる場所を探していたのだ。


 ファミレスという案もあったが、あそこには苦い思い出がある。まだ忘れ切れていないので僕が却下した。暴食するお金もないので、なんとなく誰かの家でということになり、じゃんけんでひとりだけチョキを出した賢一の家に決定した。


「母さん、ただいま。お、ゆりも帰っているのか。珍しいな」


「ゆり? この前言っていた、賢一くんの妹ちゃん?」


「おう。ぴっちぴちの中学2年生だ。素直でいい妹だから、あとで紹介してやるよ」


 賢一に促されるまま、玄関で靴を脱ぎ、用意されている客人用のスリッパに履き替える。あの賢一が住んでいるとは思えないほどに、彼の家は良い匂いがしていて、この思考は失礼だなと、それきり玄関についてあれこれ考えるのをやめた。


「可愛らしいスリッパだね。賢一くんの趣味なの?」


「そんなまさか。家のインテリアはだいたい、母さんか妹のゆりが買い揃えるんだ。父さんと俺はそういうの、あんまり興味がないんだよな」


「あ、雄二の履いたスリッパ……トミー高田のやつじゃん。わたしも好きなんだよね、トミー高田」


 なつが羨ましそうに僕の足元を見つめてくるので、なんとなく視線を落とす。可愛らしい要素が分からない。うさぎのリアルな顔が、つま先部分にそのままあった。


「なつのスリッパと交換してもいいよ。というか、むしろこっちからお願いする」


「え、いいの? わーい!」


 なつのセンスを疑うような目をしていたのに自分で気付き、途中でやめる。ヒトの好みはそれぞれだ。禿げた戦国武将のおじさんが好きな三女が居れば、リアルなウサギの顔面がつま先に象られた奇妙なスリッパを履きたがる女の子だって居る。


 僕にだって、そういう趣味のひとつやふたつ……あっても不思議じゃない。


「あはは。雄二の温もりを感じる!」


「生々しい感想はやめてよ。僕だって、なつの温度を感じるよ」


「なんの感想合戦だよ。立ち話はいいから、さっさと宿題でも片付けようぜ?」


 そういえば、宿題を終わらせるために来たんだっけ。なつとスリッパを交換して変なことを言い合うために、わざわざ賢一の家にやってきた訳じゃなかった。


 

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