第34話
「二股……? じゃあ、二取くんと付き合っているっていうのは本当だったの?」
「付き合っているというか、うーん。これにはちょっと複雑な事情が、ね」
あはは。乾いた笑いでごまかしてみる。真実を話してしまえば、雄二に嫌われてしまうかもしれない。面倒な女だと、重い女だと、思われてしまうかもしれない。
「ええとね、その……言いにくいんだけど。わたし、雄二がわたしじゃなくて、ずっとかなたかゆきを好きになって、付き合ったんじゃないかと思って不安だったの」
「だから付き合った? 二取くんと?」
「彼はわたしに同情してくれたんだと思うの。雄二がとられちゃって心が参っていたの。ずっと好きだった人が少し居ただけの女の子に奪われるのが、嫌だったんだ」
「その勢いでキスとかセ――いろいろしちゃったの? 二取くんから聞いたよ」
「し、してないしてない! っていうか、なにそれ!」
そんなこと、した覚えがない。何かの比喩かと思ったけど、わたしは誰にもキスをされたことがないし、そのあとのイケないことでさえも、未だに経験がない。
年頃の女の子としては珍しいのかもしれないが、好きなものは最後まで取っておくタイプだから、わたし。雄二とのそれがいつになるかは分からないけど、白馬の王子さまやガラスの靴みたいに、なるだけ劇的で幸せな結末を迎えてほしいな、なんて。
「なら、二取くんは嘘を吐いたってこと? なんのために?」
分からない。少なくとも、二取くんが私との会話で、たった1回だけ感情を露わにしたことがある。そのとき彼はこう言っていた――目を閉じて鮮明に思い出す。
『雄二、雄二ってなんだよ。連呼するなよ、気持ち悪いな。幼なじみってやつはみんなそうだよな。誰よりも互いのことを分かっている風でうざいんだよ、そういうの』
『それが幼なじみってやつだよ。あなたにはきっと、永遠に理解できないと思う』
『ああ、理解できないね。したくもないよ。そんな気持ち悪い関係。だいたい、やさしいってなんだよ。『都合の良いやつ』の間違いだろ。なに着飾ってんだ』
いま思えば、わたしと話していたときはどこか苛立っているように感じられる。わたしに対しての感情なのは間違いない。だけど、それが完全にわたしに向いているとは考えにくかった。――だったら、彼は誰に苛立っているの? 分からない。
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