第33話
「その前にさ、隣に座ってもいいかな。僕もブランコに乗りたいんだ」
「許可なんて要らないよ? ずっと立っているのも変だし、ふつうに座りなよっ」
「ありがとう。じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうね」
言いながら、雄二はわたしの隣のブランコに腰を下ろす。錆びついた鎖のせいで、揺らす度に切ない音がじゃらじゃらと鳴り、わたしたちを満たしてくれる。
小さい頃はこうやって、よくふたりでこの公園で遊んでいたっけ。ふと、懐かしい風景がよみがえるが、いまは昔のアルバムをめくっている場合じゃない。
「ねえ、雄二。どうして、かなたを受け入れたの? 拒むこともできたはずなのに」
「練習をしたかったんだよ。四葉さんには無理を言って手伝ってもらったんだ」
ふたりでブランコを揺らしながら、夕焼け空を仰ぎ見る。ほとんど同じタイミングだったと思う。一瞬のように感じられた偶然を、口許だけの笑みでごまかす。
夜の薄暗さを隔てた明るめの空には、ほんの少しだけ星が浮かんで見える。小さくてもきれいだ。頭のなかで星と星とを結んでいると、弓みたいな形になった。
「キスに練習なんて要らないよ。そんなの、不埒だよ」
「うん、そうだね。本来なら、僕たちはあんなことをするべきじゃなかったんだ。そのせいできっと、四葉さんを傷つけてしまったんだと思う。自分が情けないよ」
「……かなたを?」
おうむ返しに口を開いたことに驚き、それから慌てて言葉を濁す。前後にスライドするオレンジ色にだけは、嘘を塗りたくなかった。誠実な雄二に甘えてはいけない。
「なつはやさしいね。僕を責めてもいいのに」
「そんなこと、できないよ。だって、わたしもひどいことをしたもん。前科だけなら、雄二にもかなたにも負けない自信があるよ! ……誇ることではないけどさ」
「ひどいことって、今日のあいだずっと僕を無視したこと? 廊下を走ったこと?」
「う。そ、それもあるけど……でもいちばんは二取くんと付き合っているっていう
なし崩し的な結末を迎えたとはいえ、あれはたぶん付き合っていることになるのだと思う。小さな希望を胸に秘めてはいたが、けっきょくのところわたしは誰かに愛されたかったのだから。雄二への恋の燻ぶりがまだ冷めていなかったのだから。
『きみがボクと付き合ってくれるのなら、何も見えていない彼と違って、いっぱいきみに尽くしてあげるよ。きみが望むのであれば、キスでもセックスでもする』
『あなたが、わたしの都合の良い存在で居てくれるなら、報われるんだよね』
『つまるところ、それはオッケーってことでいいのかな?』
先ほど繰り広げられたばかりの、二取くんとの報われない応酬を思い出す。いまさら冷静な頭で考えてみる。おかしな話だ。なんでオーケーしちゃったんだろう。
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