「違うよ、なつ。なつは孤独なんかじゃない。僕らが居るじゃないか！」

「同情なんてやめてよ。あなたに慰められても、説得力ないもん。あなたが観覧車で楽しくわいわいしていたとき、わたしは保健医の先生に見られながら吐いていた。これのどこが孤独じゃないの？　哀れで、惨めで、サイテーじゃん」

「それでも僕はなつに手を差し伸べるよ。なつが孤独なら、僕だって孤独だ。いまだって、なつにあなた呼びされて戸惑っているんだ。なんでいつもみたいに、名前で呼んでくれないんだろうって。僕なんて気まずくても名前で呼んでいるのに」

「……なにそれ。バカみたい」

　心のなかだけでの言葉のはずが、つい声に出てしまった。ふつう、気まずいなんて当人を前にして言えないでしょ。笑いそうになったが、口許だけに留める。

　こんなにまっすぐ向き合ってくれるなんて、ほんと不思議。どこまでも自分を優先してきたわたしなんかのために、雄二はここまでやってきた。ほんとにバカみたい。

「うん。実は、僕って意外とバカなんだよね。だから四葉さんにあんなことをされるまで、自分の本当の気持ちに気付けなかった」

「……本当の気持ち？」

　神妙な空気が流れるのを肌で感じる。正直に言うと、聞きたくない。サイアクな場面の想像が駆け巡る。あるいは、リアリティのない嘘みたいな現実が。

　濡れた頬を強めに拭い、彼らを見据える。うるんだ瞳の世界はどこか悲しそうに感じた。いまから語られる雄二の、本当の気持ちを受け止める自信はない。

『なつ。いまさらで申し訳ないんだけど—―僕は四葉さんが好きみたいなんだ』

『やっぱり、そうだったんだ。あんなの、見たらすぐ分かるよ』

『四葉さんも僕のことが好き、らしい。だから僕ら、付き合うことにしたんだ』

『おめでとう。雄二もやっとリア充だね。かなたとお幸せにね……っ』

『ありがとう。なつも、幸せにね』

　なんだかまた涙が出てきた。妄想と似たようなことを言われそうで、本当に辛い。だけど、もう視線を外すのはやめた。雄二との曖昧な関係を終わらせるために。

　幼なじみのままではいられない。もう二度と。都合のよかった関係には戻れない。永遠に。その鎖は断ち切られようとしているのに、まだ、わたしは夢を見ている。彼から矢印を背けたくせに、まだほんの少しの希望に縋っている。

『でもね、わたし……雄二が好きだったんだよ。たぶん、最初からずっと』

　諦めるなんて選択肢はない。だって、雄二が好きなんだもん。嫌いになんてなれる訳がない。きっと完全に拒絶されるまでわたしは、雄二の影を追うだろう。

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