第21話
「あはは。失恋がこんなに悲しいものだって知らなかったよ。三沢さんくらい感受性が豊かだったら、ボクも彼女との幸せを夢見て泣くことができたのかな?」
「……え?」
「言ってなかったっけ。ボクね、中学の頃から四葉かなたが好きだったんだ。いつか告白でもしようと思ったんだけど、あのときボクは背中を押してしまったんだね」
伏し目がちに口許だけの笑みを浮かべる二取くんを思って、ようやく悟る。わたしと彼は本質的に同じなんだ。互いに孤独で、愚かで、誰からも愛されない。
想いすら伝えられないし、なんなら伝える前にすべてが終わった。ゴールテープは切られている。だったらもう走る意味はない。バトンなんか投げ捨ててしまえ。
「ごめんよ、三沢さん。ボクのせいでこんなことに」
「二取くんは悪くないよ。たぶん誰も悪くないんだと思う」
もしも、悪者を決めるのだとしたら、それはきっとわたしだ。おそらく何もかもがわたしのせいにできる。仲直りを求めていた雄二を拒絶したし、手を伸ばすのが遅かった。かなたを止められなかったし、最後まで現実を見ようとしなかった。
「きみはずっと弐宮雄二が好きだったんだろ。なのに、四葉かなたに奪われた」
「あなたの言う通り、わたしは遅かったんだよ。かなたは悪くない。幼なじみって関係に浮かれていたんだ。ずっと変わらないものなんだって信じていたから」
「でも、違った。弐宮雄二はどうしようもなく、四葉かなたと結ばれた」
「うん。たぶんずっと、わたしの独り善がりだったんだよ。雄二もわたしを想っているなんて嘘だ。そんなの、分かっているはずだったのにね……っ」
黒塗りの記憶に上書きされた最低なキスシーンが、脳に焼き付き、まったく褪せない。常に味のあるガムがないように、子どもが老人になるように、再生した音楽が終わるように、永遠なんてものは存在しない。そのことをすっかり忘れていた。
「あはは。ボクら、哀れだね。ふたり揃って失恋なんてね」
「うん、可哀想。自分で自分を慰めたり、抱きしめてあげたいもん」
「――だったらさ、ここで提案なんだけど。ボクら、付き合ってみない? ほら。なんだかんだ言って、相性なんかもいいと思うんだよね。昨日今日の関係だけどさ」
「付き合う、かあ。確かにわたしたち、昨日からずっと一緒だね。大半はムカつくことが多かったけど、あなたの言っていることはぜんぶ嘘じゃなかったね」
「もちろんだよ。だって、ボクは意味のない嘘が嫌いだからね。だからこそ、自分から吐いた嘘は、おおよそが誰かにとって都合の良いものなんだよ」
――ボクはただ、きみにとって都合の良い存在で居たいだけさ。
ふいに、彼がいつか放った言葉が反芻する。わたしの敵になるつもりもない、とも言っていた。それに、二取くんだけがいままでずっと、味方だった気がする。
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