第20話

『よ、よつばさん……?』


『……シちゃった、キス。これが、キス、なんだ……?』


「ちょうどいいタイミングだね。いや、悪いのかな。あはは、これがきみの望んだ結末だっけ? いずれにせよ、きみが目を背け続けた現実には違いないけどね」


 脳裏に浮かんできたのは、雄二との記憶。それがたったの数分で穢され、黒く塗りつぶされた。どこか遠くへ行ってしまったみたいに、小さな面影は消えていく。


 だけど、それでもまだ。わたしは目を閉じていた。認めたくないし、信じたくない。これこそが、わたしが誰よりも求めていなかった最悪な結末なのに、まだ。


「目をつむって過去に浸っても無駄だよ、三沢さん。けっきょくのところ、ボクたちは現在いまを生きることしかできないからね。だからさ、よく見るんだ」


 なんだかオレンジ色が霞んでいる気がした。ほとんど無意識のうちに窓のほうを見たが、雨は降っていなかった。頬が冷たくて手で拭うと、仄かに濡れていた。


 しばらくして、自分が泣いていることに気付く。夕焼けが頬の切なさを撫でてくる。さっさと乾いてしまえばいいのに。余韻に浸るふたりを遠巻きに見つめる。


「あ、離れた。ずいぶんと長いキスだね。舌でも挿入れていたのかな?」


 うるんだ瞳のままドアの隙間を睨む。明るいほうに変わるはずだった未来は暗く陰り、くすんでしまった。仲直りしたら、すべてが上手くいったのだろうか。


 ――分からない。いまとなっては永遠に。


「……雄二?」


 大きく目を見開き、雄二はこちらのほうを窺っているように感じた。弐宮雄二。わたしの幼なじみで、小さい頃からいつも一緒で、わたしがずっと好きだった人。


 でも、それはわたしだけだった。雄二はわたしが想い続けていたこともつゆ知らず、わたしの親友であるかなたと結ばれた。悲しいことに、わたしの目の前で。


『え、なつ? あっ、やば……』


 仲違いしている雄二にならまだしも、かなたにまで知られたら、明日からの学校が余計に気まずいものになる。――このままでも、ぜんぜん大差ないけど。


「あれ、もう帰っちゃうの? なんなら、教室に入っちゃえばいいのに」


「バカじゃないの。そんなこと、できる訳ないじゃん」


「みんなにやさしい三沢さんでも、ヒトにバカとか言うんだ?」


「……うるさい。もうどっか行ってよ」


 八つ当たりのような意味も含め、二取くんを突き放す。いまはただ、ひとりになりたい。彼が言った孤独の意味を、身をもって知った。もう手を伸ばすのはいいや。

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