第18話

『でもさ、四葉さん。ふつう――とすることじゃないの?』


『だからただの……安心して。――さっさと済ませたいんだけど!!』


「退いてくれないなら、もういい。勝手にして」


「うん、遠慮なくそうさせてもらうよ。それより、早く乱入でもしなよ。いつまで第三者を気取っているつもりなの? 当事者になりたくないのなら、黙っていろ」


 かなたと雄二の言い争いを背に、二取くんの言葉を聞き流す。わたしはどうしたいのだろう。この状況を。雄二との関係を。――幸せで最善な結末について考える。


 とたん、彼はため息を吐き、


「まったく。きみたちは弐宮雄二あんなのをどうして好きになったのかね。クラスでもとりわけ目立つほうじゃないし、どちらかといえば女々しいし、体育のドッジボールでは攻撃もできずに当てられるし、あいつなんかRPGに出てくる雑魚だろ」


「……雄二のことを悪く言わないで。あなたは雄二の友だちですらないんだから、それこそ黙っていてよ。雄二は自分よりも人を優先するやさしい人だよ」


「雄二、雄二ってなんだよ。連呼するなよ、気持ち悪いな。幼なじみってやつはみんなそうだよな。誰よりも互いのことを分かっている風でうざいんだよ、そういうの」


「それが幼なじみってやつだよ。あなたにはきっと、永遠に理解できないと思う」


「ああ、理解できないね。したくもないよ。そんな気持ち悪い関係。だいたい、やさしいってなんだよ。『都合の良いやつ』の間違いだろ。なに着飾ってんだ」


 感情的な二取くんに少し驚く。彼の言葉にあったリアリティが、彼自身にはないように思えたから。気持ち悪い、うざい、そう言われるのは初めてじゃない。


 何度も言われた。遠回しに。――だけど。


 こんなふうに真っ向から言われたのは初めてだ。だからたぶん、わたしもいつもの愛想笑いで受け流すようなことはしなかった。冷静に受け止めることができた。


 ただ、それができても、わたしは彼の言葉のおおよそを理解することはないだろう。嘘のない真実はやさしさに欠けた凶器だ。わたしの脆い心を穿つ刃だ。

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