第17話
「やあ、三沢さん。その様子だと、四葉かなたは教室に居なかったみたいだね」
「……二取くん。えっと、ゆきは?」
「五反田ゆきなら、少し話したあと図書室に向かったよ。当番だってさ」
教室に背を向け、少し廊下を走ったところで二取くんに遭遇した。嫌なタイミング。すぐそこに理想はあるのに、なぜだか手が届かない。まるでアームの弱いUFOキャッチャーをしているみたいで、どことなくやるせない気持ちになる。
彼と話すことは特にないので足早に去ろうとし、とたん、肩に手を置かれる。
「どこに行くの、三沢さん? 四葉かなたのことはもう諦めちゃった?」
「そこの教室に居るらしいって、賢一くんが言っていたの。だから、退いてよ」
「……もしかして、ボクのことが嫌いになっちゃったのかな。昨日はあんなにボクを求めてきたっていうのに。けっきょくのところ、自分にとって都合のいい拠り所さえあればどうでもいいんだね? あはは、まるであの女みたいだ」
「あの女? とにかく、わたしに八つ当たりしないでよ。お化け屋敷の件はペアじゃないと入れなかったし、わたしとあなたは互いにひとりだったでしょ」
彼と口論している時間はない。さっさとかなたの告白を止めないと。
『だ・か・ら! ――だってば、……!!』
『いや、ちゃんと聞こえているけど……な、なんで僕が!?』
誰も居ないはずの教室から言い争うような声が聞こえる。間違いなく彼女たちだ。告白はまだらしい。少ないことに変わりはないけど、時間は残っている。
「どうやら、壱河賢一の情報は本物のようだね。何を話しているかまではさすがに聞こえないけど、四葉かなたと弐宮雄二がそこに居ることだけは、はっきりと分かる」
「早くどこかに行ってよ。この問題に、あなたは関係ない」
「大いに関係あるよ。ボクの助言がなければ、四葉かなたはここに居ないからね」
不思議と自然に視線が鋭くなる。冷たく尖った、氷のような眼差し。彼のせいでわたしは、ずっと先送りし続けていた現実と向き合わなければならなくなった。
「そんなに睨まないでよ。四葉かなたに先を越されたのは、幼なじみという優位なポジションに居ながら、いつまでもそこに留まっていた、きみ自身の過ちだろ?」
まったくもってその通りだが、口には出さない。わたしはまだ、できるならこのままで居たいんだ。幸せを望むなら誰も傷つかない最善な結末でいいじゃないか。
「ボクはきみにやさしく教えてあげたはずだ。恋愛は想いを伝えた者勝ちだってさ。いまさら、四葉かなたに先を越されようとして焦っているの? だとしたら、愚かだよ。きみはとてつもなく愚かだ。英雄と言い換えてもいい。だって、そうだろ?」
その代わり、矢継ぎ早に二取くんに口撃される。彼の言葉はひどく現実的で、決してわたしを離さない。わたしの、青いだけの影を縫い付けてくる悪魔だ。
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