第16話

「はあ、はあ……っ」


 誰も居ない廊下を走り抜ける。全力でダッシュしたのは体育の体力テスト以来だ。――いや、昨日の遊園地でそういえば走ったっけ。もう覚えていないや。


 たったひとりの放課後は虚しく思える。足音と途切れた息だけがやけに響く。わたしたちの教室が見える頃には、心臓の鼓動もばくばくしていた。


「……かなたっ!」


 勢いよくドアを引き、目的の人物の名前を叫ぶ。何人かのクラスメイトが驚いてこちらを一瞥したが、残念ながら視界のなかに彼女は居なかった。


「どうした、三沢。そんなに急いで――雄二と仲直りしたくなったのか? あいつなら、いつでも歓迎するはずだぜ。何度もお前に話しかけていたようだしな」


「うん。雄二は頑固界隈でそこそこ名を馳せているからね」


「……なんだそれ。っていうか、お前も大概だけどな」


 わたし自身も頑固なのは否めない。昔からそれが要因で、雄二とは喧嘩を長引かせてきた。譲らない意見交換で、だけどいずれも最初に折れたのは雄二だった。


「それより、賢一くん! かなたを見なかった!?」


「四葉ならさっき、雄二を連れてどこかに行ったぞ。廊下奥の空き教室がどうとか言っていたから、おそらくそこで密会しているんだろうな。冷やかしてやったけど」


 ――実はボク、四葉かなたとは中学の頃から知り合いでね。さっきも廊下ですれ違って少し話したんだ。そうしたら、笑顔で弐宮雄二を探しに行ったよ。なにか特別な話でもあるのかな?


 先ほどの二取くんの言葉が頭を掠め、嫌な想像が広がっていく。口のなかがなんだか苦くなってきた気がする。そこから得体のしれない不快感さえも込み上げてくる。


「ありがとう、賢一くん! じゃあ、またね!!」


「おい、ドアはゆっくり閉めろ! 煩いだろ!!」


 賢一くんの言葉通りなら、まっすぐ進んだ先の教室に雄二とかなたが居る。二取くんが話したことを信じるのなら、かなたは雄二に惚れていて告白までしようとしている――のだと思う。なんという変わり身の早さだ。想い人の賢一くんはどうしたんだ。

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