第15話【閲覧注意】

「ところで、なつ。あなた、昨日はどこで何をしていたの? 別れたあと、しばらくしてみんなでバスに戻ってみたけれど、誰も居なくてびっくりしたもの」


「みんなと離れて20分くらいは、保健医の先生に見られながら、胃のなかのうどんをビニール袋に撒き散らす作業をしていたよぅ。涙とか鼻水とかでぐちゃぐちゃになりながら思ったんだけど、さすがの胃液でも海苔は消化できないんだねっ」


「だからどうして吐瀉物の話をするの? そういう特殊なフェチなの?」


 そんなの、決まっている。わたしが惨めな思いをしていたというのに、楽しそうに遊んでいたゆきが――雄二がムカついたからだ。八つ当たりと言ってもいい。


「そのあとは吐いてすっきりしたから遊びに行ったよ。激しめのアトラクションは控えて、体調不良でも楽しめるところにね――プランにあったお化け屋敷とか」


「あら、お化け屋敷? あたしたちも行ったわよ。でもあそこって、ペアじゃないといけないはずだと思うのだけれど、なつはいったい、誰と行ったの?」


「――ボクだよ」


 後ろから聞こえるはずのない声がして慌てて振り向く。やあ、と爽やかな笑顔を見せつけて彼は小さく手を振っていた。裏の、悪魔みたいな冷たさを影に落として。


「ええと、どちらさま? あたし、クラスメイトと図書委員以外の人はちょっと」


「ひどいなあ。これでもボクら、クラスメイトだよ。二取って覚えていないかな?」


「ごめんなさい。殆どの男子とは接点がないから、覚える以前に知らないのよ」


「きみの大好きな弐宮雄二の前の席の者だよ。これでもご存じない?」


 ゆきが、雄二を? なんとなく知っていたことを言葉にされると、途端に戸惑ってしまう。それが二取くんのものだから、余計に強い違和感がある。


「大好きだなんて、そ、そんな……確かに男子で仲が良いのは彼くらいだけれど」


「それが大好きってことじゃないの? それとも、なにか特別な意味でもある?」


「いや、その……それで合っているわ。あなたが勘繰るような意味はないわよ」


「ふうん。どういう意味があるのかよく分からないけど、あえて忘れないでおくよ」


 ゆきでさえも狼狽えてしまうほどに、二取くんの力は強大なものらしい。掴みどころのない話し方はなにを言っても思い通りにはならないし、なんならいまだって彼の掌の上で踊らされている気がする。


「でも、すごいなあ。弐宮雄二は。まさか、3とはね。ボクとしても羨ましい限りだよ。ひとり分けてくれないかな、なんて、ね」


「……3人?」


 ふと、時間が止まった気がした。それは考えないようにしていた最悪のイメージでもあった。だけど、彼の言葉にはどうしようもなく、リアリティがある。

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