第6話

「すごく細部まで作り込まれているね。これが現実だったら、震えちゃうよ」


「二取くんって、もしかして怖がり屋さんなの? よーし、それならなつお姉さんが先陣を切ってあげるよっ! こう見えてもわたし、怖いのは得意だから!」


 脳裏に浮かぶのは、小学3年生のときの肝試し。クラスのレクリエーションでみんなが怖がって進めないでいるのを、わたしが頑張って先頭に立ったんだっけ。


 先ほどの、バスのなかでのシーンを思い出す。『なつなんて、度胸がある一面もあるじゃないか。小学三年生の頃の肝試し、覚えてる? あの頃のなつは誰よりも勇敢だったよ!』『でもあの頃のなつの背中は逞しくて、僕は憧れさえあったんだよ。女の子に逞しいは失礼か……でもそれくらい、勇敢でかっこよかったんだ』


 一字一句、正確に把握しているのはきっと、それだけ嬉しかったからかな。雄二がわたしを彼の言葉で褒めてくれるなんてこと、最近はあまりなかったから。


「——あのさ、勘違いしているところ悪いんだけど、僕が震えているのはエレクト的な意味で、決して怖がっている訳じゃないよ。高校生にもなって、こんなしょうもないがらくたに泣くやつなんて居るはずないでしょ」


「が、がらくた……」


「だいたい、リアリティがないんだよ。血くらい本物を使えよ」


 そんなことをしたら、違法になるでしょ。ひょっとして、二取くんは意外と頭が良くないのかもしれない。なんだか彼は、現実味に囚われすぎている気がする。


「それに、このお化け屋敷のテーマなんかひどすぎるよ。三沢さん、見た?」


「見たよ。ええと、『【恋人限定】最恐ホラー屋敷~死霊と怨霊とそれからはらわた生贄祭オブザデッド~』だっけ? すごく長いよね」


「長いどころの問題じゃないよ。特にタイトルのセンスがないじゃない。幽霊を軸に置くのか、ゾンビを主題にするのか——いかんせん、コンセプトが定まっていないし、経営者の無能さが窺えるよね」


 彼が口を開く度に、このお化け屋敷への愚痴がこぼれるので、なるだけ声を聞かないようにして、わたしだけ素直にこの恐怖を楽しむことにした。


 あと、わたしの美談がとても小さなことになっちゃうから。

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