第5話
「ね、ねえ、二取くんっ。あの、お願いがあるんだけど」
「なんだい、三沢さん。性的なこと以外だったら聞いてあげないこともないよ」
わたしはどうしてもひとりにはなりたくなくて、隣に居た彼の袖を掴む。
「あの、ね。もし良かったらでいいんだけど、わたしと一緒にお化け屋敷に入ってほしいの。ほ、ほら……ここって、男女ペアじゃないと入れないじゃない?」
「ずいぶんと必死だね。ボクをここに繋ぎ止めたくて仕方ないって感じだ。まるで心の拠り所がボクしかないヤリ〇ンメン〇ラみたいに見えるよ。上目遣いとかね」
ひどい言われようだ……誰とも身体を重ね合ったことはないのに。だけど、いま精神が不安定なのは間違いない。ゆきに雄二を奪われて——違うけど——気持ちの行き先が分からなくなっているのだと思う。この切なさを彼に向けているだけ。
「ま、別に構わないよ。ちょうどボクの班はみんな男と女の組み合わせで乳繰り合っているんだ。だからボクもキミと同じで。はぶられているんだよ」
「違うよ、あなたはそうかもしれないけど、わたしは具合が悪くてバスで保健医の先生と休んでいただけで、本来ならあそこにかなたは居なかったんだから!」
「違わないよ、残念ながら。だってさ、キミ——バスから降りる前に弐宮雄二とその仲間たちと喧嘩していたよね? それに、さっきは目と鼻の先に彼らが居たのに話し掛けもしなかったよね? それを四葉さんのせいにするなんて最低だよ」
かなたのせいにはしていない——そう反論しようとする前に、彼は口を開く。やっぱりこの人、わたしをすっぽりと覆うほどの闇を率いている。影を踏むくらいに逃がさない。逃げることができない。きっと、精神的に蝕もうとしている。
「醜いよ、三沢さん。いい加減に認めなよ。孤独なことは恥ずかしいことじゃないんだよ? どうせ、人は独りで死ぬんだし。集団自殺とかいう例外は除いてね」
「怖いこと言わないでよ。作り物とはいえ、お化け屋敷なんだよ、ここ」
「あはは、ごめんごめん。キミがあまりにも、孤独であることに無自覚的だったから諭してあげようと思ってさ。心の寂しさを埋めても、穴は広がるだけで長期的な視点から見ると、実は大した意味なんてないんだよ——ヤリ〇ンの法則だね」
彼はわたしの前でずいぶんと際どいことを言っているけど、抵抗はないのだろうか。同性同士ならまだしも、仮にもわたし、女の子だよ? 異性なんだよ?
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