第2話
「んっ、吐いたら良くなったかも。雄二にはこんな姿、見せたくないなあ」
――って、なんで雄二の顔が浮かんじゃうの……ケンカしたばっかりじゃん。胃のなかにあったものと合わせて、彼に対するちょっとした憎悪が喪失したのかな?
「よーし。気を取り直して、いっぱい遊ぶぞ~! まだ具合悪いけど」
保健医の先生には、激しめの乗り物以外だったら遊んでもいい、と許可を得たので、いまこうして太陽の光を浴びることができている。バスのなかは涼しくて快適だったけど、せっかくの課外活動なんだから、外の空気を吸わないと落ち着かない。
「時間的に、班のみんなはまだお化け屋敷に居るのかな? わたしも行かなきゃ」
わたしが居なくなって、班の女子はゆきだけになっているはずだから、ペアで潜入するのだとしたら、ひとり余る計算になる。そこに流れで途中参加すればいい。
「あら、三沢さん。体調のほうはもう大丈夫なの?」
「七草先生。はい、もうすっかり……とは言い難いですけど、歩けるくらいには」
見回りをしていた、担任の七草みお先生に鉢合わせ。つばの広い帽子に、初夏にぴったりの涼しげなパンツスタイルで、見るものすべてを魅了している、気がする。
「私もあとでお見舞いに行こうと思ったのだけど、元気そうで何よりよっ」
「えへへ。ありがとうございます、みおちゃん先生!」
「こら。みおちゃんじゃなくて、ちゃんと七草先生って呼びなさい。学校じゃないとはいえ、あくまでこれは課外授業の一環なんだから。分かった、三沢さん?」
「真面目だなあ、みおちゃん先生は。わたしのことはなっちゃんでいいのに」
意地でも『七草先生』と呼ばれたいみおちゃん先生と遊園地のなかを歩きながら、癒しの時間を過ごす。ふと空を見上げると、ちょうどジェットコースターが走っていて、みんなの楽しい叫び声が聞こえてきた。わたしも乗りたい。
「そういえば、三沢さんの班だけど、人数の関係で四葉さんが移動したの」
「え、かなたが?」
行動力の塊だなあ、かなた。もはや具現化まである。今日でゴールを決めるつもりらしい。王さまゲームでも張り切っていたよね、思い切り外していたけど。
――あれ、でも待って。そうなると、わたしは。
「じゃあ、わたしはかなたの班に移動ってことですか?」
「ううん、そのままで大丈夫よ。もともと5人班と4人班の構成だったし」
ほっと胸を撫で下ろす。また仲間外れにされるかと思って焦っちゃった。いつものメンバーが班なら、安心だ。雄二に賢一くん、ゆき、かなた。そして、わたし。
「……うん?」
「どうしたの、三沢さん。まだ具合悪い?」
とんでもないことに気付いてしまった。かなたが賢一くんとペアになるのなら、必然的に雄二のペアは――こうしちゃいられない! 早く雄二のところに!!
「ちょっと、三沢さん! 走ったら危ないわよ!! 急ぐのは分かるけど、まだ時間はたっぷりあるんだからっ」
後ろで必死に叫ぶみおちゃん先生には悪いけど、これはわたしの死活問題なのだ。先生の教えに反する行為でも、わたしには守らなければならないものがある。
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