第30話
「――って、あんたの変態具合はどうでもいいの。それより、大切な話があるの!」
心のなかだけで繰り返す。大切な話。彼女が僕に近づく理由にはまだ見当がついていない。何だろう。僕自身に興味を持った訳ではないだろうし、分からないな。
「まず、確認のために聞くけど。あんたって、賢一君といちばん仲良いのよね?」
「うん。いちばんかどうかは自信ないけど、賢一とは親友だと思っているよ」
「良かった! これで第一関門は突破ね。あとは第二、第三、第四くらいか」
なるほど。彼女が話したいことというのは、賢一関連の話題なのだろう。教室に居る賢一から遠ざかり、わざわざ
「賢一君さあ。昨日の遠足の――特にワタシとのデートのことで、何か言ってなかった? 四葉が良い匂いだったとか、柔らかかったとか、可愛いとか!」
「いや、特にそういった話は聞いていないけど……。というか、それくらい四葉さんが、賢一に訊けばいいんじゃないかな。僕に訊くようなことでもないと――」
「――なに?」
「なんでもないです。だから怖い目で睨まないでください」
いくら彼女が背丈の小さな少女とはいえ、鋭い眼光で射貫かれたら、冷や汗というものが止まらなくなる。僕なんかは素直に従うことしかできないし、恐ろしい。
「……はあ。あんたに訊いたのは、賢一君のリアルな反応が怖いからっていうのもあるけど、単純に恥ずかしいからよ。手品師が自分のマジックのトリックを観客に明かさないように、いちいちそんなこと公言したりしないの! 分かった?」
「はい。すみませんでした」
「でも、朝の反応とか、さっきの教室を出たときの冷やかし的に、ワタシのアピール作戦はまったく効いていないみたいだけどね。これだから鈍感さんは!」
その辺の事情が詳しくない僕でも、四葉さんの熱意から意図を汲み取ることができた。彼女はおそらく、賢一のことを好意的に想っているのだ。そう考えると、昨日の遠足での態度にも説明が付く。好意ゆえの密着。好意ゆえのいちゃつき。
「恥を忍んで、腕におっぱいだって当てまくったのに! ゆきちゃんに比べたらしょうもないレベルのクオリティかもだけど、いちおう柔らかくて感度だって――!!」
「ストップ、ストップ! 生々しい話はせめて僕の居ない空間でしてよ!」
「はっ……賢一君への気持ちが溢れてつい。って、いやらしい目で見ないでよ! あんたのことなんか、1フェムトメートルも考えていないんだから!!」
「僕だって、四葉さんのことは1ゼプトメートルすらも思考の余地がないよ」
「なんでワタシよりも下回るの。それならワタシは1ヨクトメートル!」
なんなんだ、この無意味な言い争いは。僕はなつに謝りたいだけなのに、どうしてこうも遠回りしないといけないんだ。力の及ばない自分に情けなくなってくる。
※1フェムトメートル…10メートルのマイナス15乗
※1ゼプトメートル…10メートルのマイナス21乗
※1ヨクトメートル…10メートルのマイナス24乗
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