第29話
「ダメだ、なつがぜんぜん話に乗らない……!」
あれから僕は趣向を凝らし、いろいろな作戦でなつに話しかけた。たとえば、昨日の面白かったテレビ番組の話。たとえば、中学時代の友人の話。
でもすべて、効果が期待できなかった。もはや喧嘩で嫌われたまである。『昨日』もしくは『遠足』というワードを出しただけで、なつに逃げられた。
「こうなったら、ご機嫌取り作戦だ……放課後の買い食い作戦でもいいな。それから、ゲームセンターでお気に入りのぬいぐるみを取ってあげる作戦に――」
「――あ、いたいた。弐宮。ちょっと、話があるんだけど」
「え、四葉さん!? 僕に話って?」
なつと仲直りするための作戦に思考を巡らせていると、目の前に颯爽と四葉さんが現れた。彼女が僕に用があるなんて、珍しい。やはり昨日の影響だろうか。
「ここじゃ賢一君も近いし、便宜的に廊下奥の空き教室で話すよ。さあ、来て」
「ご、強引すぎるよ、四葉さん! 袖が伸びちゃうから引っ張らないでっ!!」
「ひゅーひゅー、おふたりさん。放課後の逢引きとは憎いですな!」
僕よりも背丈が小さいはずの四葉さんに腕を掴まれ、教室から廊下へ連れ出される。意外と力が強く、抵抗していなければそのまま、現場へ連行されていた。
背中で受け止めた賢一の扇動を、記憶に焼き付ける前に忘却し、そそくさと空き教室の扉を閉める。移動してまで僕に伝えたいこととは何だろう。気になる。
「なに? 見つめられても困るんだけど……」
「ごめん。僕と四葉さんでの、ふたりきりの話って何かと思って」
少なくとも、賢一が望むような意味ではないことは分かった。四葉さんの頬が赤くなっているのはきっと、夕陽がそうさせただけ。僕には関係がない。
「昨日の膝枕の件もあるけど。弐宮ってさ、気色悪い表現が好きなの?」
「いや、別にそんなつもりは毛先のほどもないよ……?」
「なんか言葉のチョイスが変態って感じ。むっつりが滲み出ていて、正直きもい」
き、きもい……。初めて言われた。しかも、女の子に面と向かって。表現が拙いことは自覚していたつもりだったけど、まさかそこまで言われるとは。
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