第28話
「やあ、なつ。今日は早めの登校だね? 僕なんて久しぶりに賢一とふたりで来ちゃったよ。さいきん暖かくなったから、衣替えをしちゃってもいいかもね!」
「あ、うん。そうだね」
「なつは今日、日直だったっけ。クラス日誌を書くのは大変だろうけど、頑張ってね! 埋めることがなかったら、七草先生に対する質問でもいいみたいだからさ」
「ふーん、そうなの」
「あ、あと、昨日のことだけど――」
「ごめん。もうわたし、行かなくちゃ。保健委員の集いがあるし」
そのままなつは僕に背を向け、教室を出ていった。行き場を失った言葉たちは闇の渦に呑まれ、僕を自分の席へと誘う。
「帰ってきたわね。どうだった、あたしが伝授したテクニックは――その肩の落とし具合から推測するに、やっぱりなつの反応が芳しくなかったかしら?」
「うん。お察しの通り、なんの成果も得られなかったよ。それどころか、なつがそっけなくて、会話どころか独り言よりも虚しさがすごくて怖かった……」
五反田さんが教えてくれたのは、僕のトラウマであり、彼女曰く彼らのブラックヒストリーでもある春の騒動にて、披露された立ち居振る舞いのオマージュだった。
あたかも昨日の喧嘩がなかったかのように振る舞うことで、状況が変わる可能性があったけど、五反田さんが教えてくれた、とっておきのテクニックは無に帰した。
「だったら、今度はアプローチを変えてみたらどう? ただ話しかけるんじゃなくって、なつがあなたに心を開くような、面白い土産話を聞かせたり、ね」
「うん、そうしてみるよ。いろいろとありがとう、五反田さん」
なつや賢一にもできたことが、僕にできないはずがない――そう信じて、明くるときも僕は、塩対応モードのなつと仲直りするタイミングを窺っていた。
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