第27話
「……あはは。廿六木さんって、五反田さんのお兄さんみたいでやさしいんだね」
「いまの話のどこに兄要素があったのかしら。廿六木さんは外面がいいかもしれないけれど、うちでは本当にお節介なんだから! 確かにやさしいけれど……」
「だって、朝食を作ってくれたり、起こしに来てくれたり……使用人とお嬢さまって関係よりかは、兄妹の印象が強いんだもん。なんだか羨ましいなあ」
「兄妹ねえ……そういうあなたたちもだいぶ、兄妹っぽいわよ。なつが妹で、弐宮くんが兄ね。うふふ、微笑ましい光景を想像しちゃったわ。ごめんなさいね」
僕たちが兄妹、か。その想像も意外と的を射ている。実際に僕らは幼なじみでしかないけど、心のどこかで僕は勝手に、なつを妹のような存在だと思っていた。
快活でフレンドリーな妹を放っておけなくて、いままでずっと目の届く範囲に彼女を置いてきた。それが僕の勝手な虚像であっても。五反田さんの言うように、お節介でしかなくても。
だけど僕らは兄妹なんかじゃない。ただの幼なじみ。それ以上でもそれ以下でもない。つまり喧嘩ではなく、単純に僕が悪いのだ。なつに責任の一端はない。
「ねえ、弐宮くん。なつと話したいのなら、とっておきのテクニックがあるんだけど、知りたい? いまなら無料で教えてあげてもいいのだけれど」
「え……無料!? 知りたい! とっておきのテクニックって?」
「簡単な方法よ。少しの勇気と思い切りの良さがあれば、誰だって使える初級技よ」
そう言って、五反田さんは僕にこっそり耳打ちで、そのテクニックを教えてくれた。内容は僕の口から言うのはとても憚られるけど、すごいということだけ。
「……それ、僕にとってはトラウマそのものなんだけど」
「大丈夫よ。きっと、トラウマなのはあなただけじゃないから」
そりゃあ、そうだろう。あれからまだ時間は経っていない。記憶を消されない限りは、完全に忘れることはできないはずだ。第三者ならともかく、当事者なら。
「その方法を使えば、なつも反応くらいしてくれるわよ。気まずいのはお互いさまじゃない。だから、少しの勇気と思い切りの良さが必要だって言ったの。分かる?」
「うん……自信はないけど、やるだけやってみるよ。いつまでもこんな状況ではいられないしね。兄妹じゃなくても、僕らは強い鎖で繋がっているようなものだからさ」
僕の世界では、誰ひとりとして欠けちゃいけないんだ。賢一に五反田さん、四葉さんや七草先生、クラスのみんな。廿六木さんや僕らの家族。そして、なつ。
――みんなが居て、僕が居るのだから。
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