第26話

「おはよう、弐宮くん。今日はいい天気ね」


「おはよう、五反田さん。うん、そうだね」


「その割に浮かない顔をしているけれど、どうしたの? もしかして、まだなつに謝っていないの?」


 胸のなかだけでため息を吐いたのに、五反田さんは洞察力が高い。それでいて、僕が未だに落ち込んでいる理由をぴたりと当ててきた。


「すごいね、五反田さんは――僕は何も言っていないのに。メンタリストなの?」


「そりゃあ、昨日のあなたを見ていれば、すぐ察しがつくわよ。それこそ、メンタリストじゃなくても簡単に分かると思うけれど?」


「あはは……さすがだね。実はさ、なつとの接し方が分からなくなっちゃったんだ。情けないよね、僕と彼女は小さい頃から仲が良かったはずなのに」


 なつと喧嘩をしたのは、これまでに何度かあった。小さくて、くだらない規模のものをいくつか。だからこそ、きっと仲直りの方法も忘れてしまった。


 中学からはお互いに協調し合うようになって、日を跨いだ喧嘩の回数も少なくなって、やがてゼロになった――のだけど、昨日久しぶりに意見が分かれた。


「それが当たり前じゃないの? すれ違ったり、くっ付いたり……人間って意外とそういうものだと思うけれど。あたしだって、廿六木さんと言い争うことあるわよ?」


「五反田さんが、廿六木さんと? 本当に?」


 ふたりとも、クールなイメージしかないけど、口喧嘩するだなんて驚きだ。僕にはまったく、五反田さんと廿六木さんが言い争う場面を、どうにも想像できない。


「本当よ。朝食のウィンナーの焼きが甘かったり、あたしが寝坊しかけたのに寝顔を写真に撮ろうとしたり、とにかくあの人はうっかりが多いのよね!」


「へえ。廿六木さんにそんな一面があるんだね。ギャップ萌えってやつかな?」


「ギャップ萌えで済めばいいけれど、廿六木さんにはあたしの好みを教えているのよ? なのに、紅茶を注がれたのよ。あたし、苦い飲み物は好きじゃないの」


 五反田さんにもお嬢さまらしいところがあったなんて。普段はしっかり者というイメージが板についているからびっくりだ。まさにギャップ萌え――なのかな。

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