第25話

「賢一君、おっはよ~!」


「ああ、四葉か。朝から元気だな、おはよう」


 教室の扉を開けると、こちらに気付いた四葉さんが、真っ先に賢一のもとへ飛び込んできた。相変わらず彼女のなかで、僕は存在していないことになっている。


 騒がしい教室でも真っ先に確認するのは、なつが居るかどうか。――居た。クラスの人と、仲良く談笑しているみたいだ。しかし、こちらにはひとつも目を向けずに。


「に、弐宮も、おはよう……」


「えっ……あ、おはよう?」


 まさか声を掛けてもらえるとは思ってなくて、声に詰まる。いままで四葉さんには背景扱いされてきたので、挨拶を返すのにだいぶ時間が掛かってしまった。


「どうした、お前ら。初々しいカップルみたいな反応で……。やっぱり昨日のお化け屋敷でなんかあったのか? 最後は何故かふたりで出てきたしな」


「ないない! そんなのないよっ!! 賢一君が不安になるのは分かるけど、ワタシの心や身体はぜんぶ、あなたのものなんだよ! 純愛ラブロマンスなんだよ!」


「いや、要らないけど……」


「なんで!? やっぱりゆきちゃんみたいなグラマラスが良いの⁉ 賢一君レベルでも見た目の魔力に惑わされちゃうの⁉ 性の飢えを上半身曲線で凌いでいるの⁉」


 四葉さんの虚無的な叫びを右から左へ受け流す。どこからか視線を感じて振り返ると、むすっとした表情のなつと目が合った。それからすぐにそっぽを向いてしまう。


「ちょっと、弐宮! あんたが変な反応をするせいで誤解されちゃったじゃない!!」


「ごめん。四葉さんに挨拶されるのが予想外過ぎて……」


「挨拶くらい普通にするでしょ! と、友だちなんだから……っ」


「そ、そうだね……うん。じゃあ、これからもよろしくね」


 言ったあとで、気付く。自然な流れで握手を求めてしまった。四葉さんに友達と認められた嬉しさに舞い上がりすぎた。――不味い、脊髄反射で罵られる。


「よ、よろしく……」


「ひゅーひゅー! 吊り橋効果ってやつか!? おめでとー、おふたりさん!!」


「露骨な煽りは止めてよ、賢一! 四葉さんも気軽でいいよ!?」


 思いのほか、四葉さんが大人しく、しかも快く承諾してくれてびっくりだ。ドッキリではないことが分かったので、これからは本当に、友だちとしてやっていけそう。


 ――背中に冷たい眼差しを感じたが、なつと和解できる日は来るのだろうか。

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