第22話
「……あれ?」
気のせいだろうか。この血みどろの骸骨と、一部の内臓を露出させた凄惨な屍体が、不謹慎にも仲良く肩を組んでいる景色を先ほども見たような。超グロテスク。
「四葉さん……これって、逆走して――」
「う、うるさいわね! 方向音痴なんだから仕方ないじゃない‼」
まさかの逆切れ。四葉さんらしいと言ったらそれまでだけど、早く脱出したい僕から言わせれば、彼女に先導させたのは誤算以上の何物でもない。ペアだった賢一とはぐれ、後ろから追いかけていた僕と、思い切り衝突したのにも納得がいく。
そして彼女は悲鳴にも似た声で叫ぶと、不意に歩く速度を上げた。僕を振り払いたいのだろう。だけど残念ながら、歩幅の差でぴたりと背後につくことができる。
「なんなの、あんた! ストーカーも兼任できるの⁉」
「そうじゃなくて、そっちは入り口だから! って話を聞いてよ、四葉さん‼」
僕の必死な制止もむなしく、彼女は四葉クオリティの逆走を魅せていく。あまりそっちに行くと、危ない。何がと言うと、主に僕やキャストの鼓膜が。
「きゃあああああ‼」
ほらね。五反田さんと入り口の列に並んでいたときも、こんな風に喧しかったのだから、すぐ隣でダメージを負った賢一の心中を察する。耳を押さえても、手のひらごと劈くような勢いだ。逆走よりも、この悲鳴のクオリティのほうが素晴らしい。
「四葉さん……だ、大丈夫?」
悲鳴が空間を切り裂き、耳鳴りのような痺れを覚えてすぐ、彼女のほうへ駆け寄る。なんなら四葉さんよりも、彼女を驚かせたキャストさんの鼓膜が心配だ。
「あ、ああ……」
ぼんやりと見える、ふたつの人影。ひとつは悲鳴の主でもある四葉さんの姿。
もうひとつは立ち竦んでいるゾンビの姿。いわゆるキャストさん。
もう少し詳しく状況を説明するなら――四葉さんはどうやら、驚いた拍子に腰を抜かしてしまったらしい。床に両手とお尻をついて倒れている。
「……四葉さん?」
そのはずだけど、様子がおかしい。声を掛けても恨み節のひとつも聞こえてこない。どうしてだろう――さらに近づくと、四葉さんが放心している理由が判明した。
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