第21話

「弐宮……いつまでワタシに付きまとうの? そんなに法廷で会いたいの?」


「そんなつもりはないよ。ただ、僕も早くここから出たいだけだよ」


 怒った口調の四葉さんを、やさしく諭すように宥める。僕の言動ひとつで、彼女はすぐ機嫌を損ねるので、ここは僕が率先して大人にならないといけない。


 だから僕は、付いてきているのはキミのほうじゃないか――とは口が裂けても言えない。そんなことを軽々しく言ったら、変態扱いどころでは済まないだろう。


「あーあ。賢一君、どこに行っちゃったんだろ。こんな可愛いお姫さまを置いて」


「たぶん賢一のことだから、もうゴールしているんじゃないかな? 五反田さんも一緒に居たらいいけど、僕とすれ違ったくらいだし、四葉さんは会わなかった?」


「歩兵ごときが馴れ馴れしく話しかけないでよ。仮にそうだとして、きっと賢一君はワタシを華々しく迎えるために、早めのゴールをしたのよ。そうに違いない!」


 ほ、歩兵……。変態と言い、なかなかに渾名の種類に富んでいる。もちろん、僕への口撃の。それに加えて彼女は、かなりのポジティブ回路を持っていた。


 四葉さんみたいに考えるのなら、五反田さんも僕を待ってくれていることになる。彼女はそうしてくれているだろうか。ふたりと連絡を取りたいけど、このお化け屋敷でスマホは禁止されている。それに大人しく従ってしまうのが僕の悪いところ。


「そうと決まれば、賢一君と合流して、さっさとこんなところ――」


「あ、待ってよ! そんなに急いだら危ないよ、四葉さん!」


「変態歩兵は黙ってなさい! ワタシは賢一君といちゃらぶなデートをしたいの!」


 ついに変態と歩兵のコラボレーションが実現してしまった。変態歩兵。すごく不名誉。そして彼女は僕の前に割り込み、自ら先導員と化した。なんてわがままなお姫様なのだろう。何か小言の類を言ってやりたいけど、ここは大人の僕が折れなくちゃ。

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