第20話

「――って、変態君じゃん。なんであんたがここに?」


「それはこっちの台詞だよ。賢一と一緒じゃなかったの?」


 この尖った口調、やっぱり四葉かなたさんだ。僕と五反田さんが屋敷へ入る前から賢一とふたりで攻略していたはずなのに、どうして目の前に彼女が居るんだ。


「そういうあんたも、ゆきはどうしたのよ。まさか薄暗いことを利用して、襲い掛かった訳じゃないでしょうね? 夜這いならぬ影這いってやつ?」


「ゾンビじゃあるまいし、そんなことしないよ。五反田さんは気付いたら居なくて……四葉さんも、はぐれたんでしょ。よかったらゴールまで一緒に行こうよ」


「このお化け屋敷が恋人限定だからって、調子に乗らないでくれる? こう見えてワタシ、空手の有段者なんだけど。あんたとペアを組むくらいなら、ここで倒すわ!」


 言って、四葉さんは臨戦態勢に入った。そこまで僕のことが嫌いなのか。ここは僕が折れることにしよう。大人しく白旗を掲げる。僕らは並列ではなく直列で進む。


「ふん、分かればいいのよ。あんたとカップルに見られたら、人生ログアウト不可避だもの。変態はおとなしく先頭を切って、せいぜいワタシを導きなさい」


「――あのさ、四葉さん。そろそろ変態呼びは止めてくれないかな? 周りの目が気になるんだけど。言われる度に僕のメンタルが、大幅に削られていくんだ」


「そんなの知ったこっちゃないよ。弐宮が変態なのがいけないんじゃん。ふつう、人前で膝が気持ちいいなんて言わないでしょ! せいぜいバカップルくらいだよ」


 やはりバスはそのまま降りたほうがよかった。確実に。彼女と交わすコンタクトは最初から言動がきついものだったけど、悪化させてしまったように思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る