第19話

「ふう、思ったよりも大したことなかったわね。さて、最恐ホラーも大したことなかったし、バカップルと合流しましょ、弐宮君……って、あら?」


 いつの間にか背後をぴたりとついてきていた弐宮君が消えている。神隠しではないはず。お化け屋敷のなかで、彼とはぐれてしまったらしい。


「探しに行くにも、通路を逆走するのはルール違反よね……どうしましょう?」


 暗幕を抜け、あたしは既に外へ出てしまった。先にクリアした壱河・四葉ペアのところにでも行きましょうか……いや、あのバカップルが醸し出す雰囲気を浴びるのはご遠慮したい。やはりここで、弐宮君がやってくるのを待ちましょう。


「お、五反田じゃないか。四葉を見なかったか?」


「バ――壱河君? その口ぶりからして、あなたも片割れとはぐれたの?」


 危うくバカップルと言いそうになったのだけれど、なんとか堪えることができた。それもそのはず、バカップルというには肝心の人がそこに居なかったからだ。


「実を言うと、そうなんだよ。オレはまったくもって平気だったんだが、四葉がビビり散らかして先に行っちまって、とうとう行方不明になっちまったんだよ……!」


「かなたの声……入り口からでも充分に響いていたわよ。屋敷の住人の鼓膜が破れていないか心配だわ。ちなみにだけれど、間近に居たあなたは大丈夫だったの?」


「屋敷天井の空気噴射に比べたら、四葉の悲鳴なんて大したことないぜ。むしろ可愛いくらいだ。『ああ、オレいまデートっぽいことしているな』って思ったよ」


 なんて能天気なのだろう。誰からも愛される男というのは、これほどまでに愛に対して無関心というか、薄情というか。平たく言うと、爆発希望不可避。


「そういや、雄二も見ないな。どうやら五反田も、オレと同じ状況らしいな?」


「あの暗幕以外に屋敷の出口はないみたいだし、運がよかったらきっと、どこかでふたりは出会っているはずよ。そうでなくとも、別々にあそこから出てくるわ」


「それもそうだな。連絡を入れてもいいが、気長に待つか。とりあえず喉も乾いたし、飲み物でも買おうぜ。よかったら奢るけど、何がいい?」


「ありがとう。さすがはクラスの女子に、王子さまと言われているだけあるわね。有ったらでいいのだけれど、おしるこをお願い」


「王子さま……オレが? っていうか、夏におしるこってどうなんだ?」


 かなたには悪い――とは微塵も思わないのだけれど、王子さまに買ってもらうおしるこでも飲みながら、あなたの帰りを待つことにするわね。グッドラック。

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