第18話
完全に五反田さんと離れ離れになってしまった。こんなことになるんだったら、無理やりにでも手を繋ぎに行ったほうが――否、それは迷惑でしかない。
「とりあえず早くここから出ないと……怖いけど、出ないことには動けないし」
脱出の手がかりは非常灯の案内と、赤い絵の具もとい血で描かれた矢印のみ。偽物だと分かり切っていても、苦手意識は変わらない。気持ち悪くて死にそう。
『うわああああああ!!』
「……っ。これは偽物だからセーフ、セーフ」
通路の隅に漂っていた死霊らしき影が急にひっくり返って、悍ましい表情を浮かべ、こちらに倒れ込んできた。作りものだと思えば、こんなの大したこと、ない。
『オマエのはらわたを寄越せええええええ!!』
「ひっ、ああ……怖くない、怖くない」
怖いのは恋人限定のお化け屋敷を、ひとりで徘徊している僕のほうだ。僕の勝ち。平気だと言い聞かせてしまえば、なんともない。むしろ好きになってくる。
『あなたの血は、何色の何!?』
「はあ、はあ……赤色のブラッドだよ。覚えて帰ってね」
冗談を言えるくらいには、精神状態も良くなってきた。なんてったって、足元さえ見ておけば、案内も視界に入るし、簡単に攻略できることに気付いたからね。
徐々に出口に近付いている感触がある。このまま進めば、僕は勝てる。
「あとはこの角を曲がれば――」
「きゃっ……!!」
「――うぐっ、な……なんだ!?」
通路の角を曲がったとたん、形容できない衝撃が、主に僕の下腹部を襲った。あまりの力強さに、僕は尻餅をついて倒れた。相手もまた同じようにして手をつく。
「痛ったー。ねえ、どこ見て歩いているの?」
「ごめんなさい……っていうか、大丈夫? 怪我とかしていないかな?」
なんだ、この人は。僕も不注意があったとはいえ、思い切り飛び出してきたのは、そっちじゃないか――とは言えず。とりあえず謝っておく。
「ぜんぜん大丈夫。あんたのほうは?」
「僕も大したことないかな。ねえ、立てる?」
衝突してきたとはいえ、この人もいちおうダメージくらいは受けている。男女の体格差からしてダメージ差は明白だ。受け取るかはともかく、手を差し伸べてみる。
「あ、ありがと。ワタシのほうも思い切りぶつかっちゃって悪かったわね」
意外と素直だな、なんて感心していると、いままで隠れていた相手の顔がよく見えた。やっぱり、この人どこかで見たことあると思ったら――
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