第17話
ようやく、僕らの番がやってきたので、入場してみる。屋敷のなかは予想していたが、非常用の照明だけでものすごく暗かった。そしてタイトルになぞらえて、幽霊や臓物のレプリカがそこらじゅうにあった。血もリアルであまり見たくない。
「うわ。偽物なのは知っているけど、ちょっと怖いな……」
「弐宮君は怖がりさんなのかしら? だったら、あたしの手を貸してあげるわよ」
「ありがとう……うん。じゃあ、貸してもらっていいかな?」
少し考えて、断るのを止めた。これは五反田さんとのデートだったのを思い出したからだ。いまは彼女以外の人を頭に浮かべてはいけない。そんなの、失礼だろ。
「じょ、冗談よ。なに本気にしているの。先に行くわよ、まったくもう」
「えっ……ちょ、ちょっと待ってよ、五反田さん!」
急に早歩きになる五反田さんを追いかける。通路の壁には臓物のレプリカがこびりついていた。気持ち悪い。微妙に振動しているのが、妙に生々しくて怖い。
「五反田さん、待ってよ。本当に怖いんだよ、僕」
「知らないわよ、そんなの。変なことを言うあなたが悪いのよ」
「え、だってデート――」
そこまで言って、不意に天井から大量の蒸気が、耳を劈く噴射音とともに襲ってきた。「うわああああああああ!!?」いきなりやるなんて、驚くに決まっているじゃないか――なんて思いながら、僕は珍しく悲鳴を上げてしまった。
「はあ、はあ……なんだ空気か。やめてよ、心臓に悪い」
心臓が口から飛び出しそうになった、というのを実際に体験してしまった。特にいちばん怖かったのは蒸気でも音でもなく、衝撃が強すぎて装飾の臓物が激しく揺れていたことだった。そのときの恐怖たるや、侮りがたしものであった。
「五反田さんは大丈夫だった? あれ、五反田さん……?」
薄暗い環境に慣れて目を凝らしても、近くに五反田さんは居なかった。もしかして、置いて行かれた? そんなはずはない――とも思ったけど、あり得る。
あるいは、先ほどの蒸気による奇襲で、五反田さんは歩く速度を速めたのかもしれない。どちらにせよ僕は彼女に、置いて行かれてしまったみたいだ。
「本気で言っているの、それ。嘘だと言ってくれよ……」
虚しくぼやく。通路の角から幽霊が飛び出してきたりしても、僕は五反田さんの手を繋げない。これはたぶん、入場する前に彼女に無関係な話をした罰だろう。
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