第16話

「だったら、分からないままでいいじゃない。すべてを理解する必要はないわよ」


「え――分からないままでいいの? ふつうは悪いことだと思うけど」


「そんなことないわ。むしろ、あなたがそうしているように、分からないことを認めることに意味があると、あたしは思うけれどね。少なくとも、知らない振りをして居座っている、どこかの誰かさんよりかは、よほどマシだと思うけれど?」


 なんだか棘のある言い方だけど、犯人探しはやめておこう。ただでさえ、ポーカーフェイスが苦手だというのに、僕が特定できるはずがない。


 でも僕は五反田さんの言葉に救われた。すべてを理解する必要はない。なろほど、とつい感心してしまう。僕よりも彼女のほうが苦しいはずなのに。


「ありがとう、五反田さん。でも、ごめんね」


「どうして謝るのよ。あなたは何も悪いことを言っていないわ」


「いや、だってデート中なのに、五反田さんのことを考えていなかったから」


「良いわよ、別に。恋人同士って訳じゃないもの。そこまであたし、メンヘラじゃないから。どうぞご自由に、なつの未熟な裸でも思い浮かべていなさい」


「未熟……たぶん、これからだと思うよ。成長期っていきなり来るからさ」


「かなたが言っていた通りね。弐宮君は変態のやつだって」


 この流れでは否定できない。相手が五反田さんだということをすっかり忘れて調子に乗ってしまっていた。気付いたときにはもう遅い。時間は後ろに進まない。


「いや、違うんだ……これは話の流れで」


「ぷっ……あはは。そんなにムキにならなくてもいいじゃない! ふふふ」


「五反田さん……! もうからかわないでよ」


 僕のせいで暗くなっていた空が、いつの間にか健やかに晴れていた。いまならラジオ体操も、恥ずかしがらずにできるかもしれない。いや、どうだろう。


『きゃー!!』


「四葉さん、かな。すごく楽しんでいるみたいだね」


「【恋人限定】最恐ホラー屋敷~死霊と怨霊とそれからはらわた生贄祭オブザデッド~って、タイトルからしてカップルの仲を引き裂こうとしていない? それに、ホラー要素を詰め込み過ぎよ。B級映画でもこんなお腹いっぱいにならないわ」


 確かに、いったい何が主体なのかさっぱり伝わってこない。死霊なのか、はらわたなのか。オブザデッドに関しては、幽霊じゃなくてゾンビだし。なんだこれ。

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