第9話

「あたしは別にこのままでも構わないわよ。なつが可哀想だし」


「それはそうかもしれないけどさ……僕は、なつの為を想うなら、今日のところは安静にしてもらったほうが良いと思うな。賢一もそう思うでしょ?」


「まあ、そうだな。途中で倒れられても、付き添いの先生が近くに居なくて、遊園地自体に迷惑を掛けてしまうかもしれないからな。三沢もここは退いたほうが」


「分かったよぅ……そんなにわたしが邪魔なんだね、雄二は」


「違うよ、僕はただ……」


 すべて言い切る前に、なつは僕に背を向けて、よろよろと保健医の八戸先生の下へ行ってしまった。嫌な言い方だったかな……僕はなつのことを想っているようで、実は何も考えられなかったのだろうか。ものすごく、やるせない。


「どちらかが悪いって訳じゃないわ。弐宮君も落ち込まないで」


「うん。でも……」


 僕がなつの気持ちを考えずに、無理やり発言してしまったことは否めない。さらにあと押しとして、賢一にも意見を求めてしまった。僕が責められて当然だ。


「いまのはオレが強く言い過ぎたかもな。ごめんな、雄二。次会ったときに三沢に謝るよ」


「賢一は何も悪くないよ。むしろ悪いのは僕だ……僕がなつを怒らせたんだ」


 後悔先に立たず、なのは分かっている。だけど、いつも必ず言い終わってから気付いてしまう。なつが、たとえば四葉さんが傷ついたことも知らんぷりして、好き勝手に言ってしまった。なんて僕は傲慢なんだろう。すごく最低な人間だ。


「落ち込むのはもう勝手だけれど、そんなムードで楽しめるものも楽しめないわ。いっそのこと、そういった負の感情のリセットでもしてみる?」


 そう言って五反田さんは、もはやお馴染みとなりつつある手の動作を、空中でやってみせた。その速度は風を切り、高い音を出した。


「五反田って、本当にビンタ好きだよな。将来はそういう仕事でもするのか?」


「もしかしたらの可能性だけれど、堕ちるところまで堕ちたら就いちゃうかもね。で、弐宮君はどうされたい? あたしの何回目か分からないビンタを受けたい?」


「やめとけ、雄二。そんなことされなくても、あとで誠心誠意、三沢に謝れば何とかなるって! それともお前は、五反田のビンタなしでは生きていられないのか!?」

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