第6話
「あの、雄二。お手柔らかにお願いね……?」
「任せてよ。なつの良いところなんて、すぐ当ててみせるからさ」
なつとは何十年と寄り添ってきた仲だ。良いところくらい簡単に言える。なんなら、みっつじゃ足りないかもしれない。頭のなかでリストアップしてみる。
「ふたりとも、準備は良い? そろそろ命令を遂行してほしいのだけれど」
「まだまだやりたいから、できれば早くやっちゃってくれよ!」
「賢一君の言う通り! さあ、早くお互いを褒め合うのだ☆」
野次馬が煩いので、素早く終わらせることだけを考えよう。通路を挟んで、なつと見つめ合う。露骨に目を逸らされ、僕はひどく大きな不安に駆られた。
当たり前だ。賢一みたいな格好良さも男らしさも持っていない僕が相手なのだから。日が経つにつれて大きくなっていくコミュニティに夢を見せられていた。
僕の周りに人が集まっている訳じゃない。すべて賢一の力だ。彼がイケメンだからみんな群がるだけで、僕はただの飾り……いや、それにすら値しない何かだ。
「じゃ、じゃあ僕のほうから言うね。なつには愛嬌があるから、どんな人とでも仲良くなれそうだよね。現にクラスの色んな人と居るのを見かけるし」
「そ、そうかな? 愛嬌なんて言っても、わたしはただみんなと仲良くなりたいだけだし、そういう雄二だって、誰にでもやさしいじゃん!」
「そんなことないよ……僕は嫌われたくないから、そうしているだけで。なつなんて、度胸がある一面もあるじゃないか。小学三年生の頃の肝試し、覚えてる? あの頃のなつは誰よりも勇敢だったよ!」
「もう、何回も言わなくていいから! あれはみんな怖がっていたから先導しただけで!! 本当はわたしだって怖かったんだからっ」
「でもあの頃のなつの背中は逞しくて、僕は憧れさえあったんだよ。女の子に逞しいは失礼か……でもそれくらい、勇敢でかっこよかったんだ」
「や、やめてよぅ。そんなに言われると照れちゃうよ……っ」
基本的に小さい頃や昔のエピソードは覚えていないけど、あの頃のなつの勇姿は特に印象深くて忘れられない。いま思えばそれが初めての、なつという女の子に対する感情だったのかもしれない。最初はたぶん、憧れだった。
「……えっと、あたしたちは何を見せられているのかしら?」
「うーん。いちゃつくのは別に構わないんだけど、あとでしてほしいよね」
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