第5話

「へえ、そうなの。じゃあ、あたしの命令は『CとDがお互いに見つめ合って、良いところを3つ言い合う』にしようかしら。男女の組み合わせならベストよね」


「おお、さすが五反田。飛ばしてきたな。王さまゲームらしい命令だ」


 忸怩たる思いを抱かずにはいられない。まさか連続で命令を受けることになるとは。悔しい。視界の隅で五反田さんが僕を見て笑っている。とても悔しい。


「さあ、Cは誰だ? Dはゆ、誰だ? 早く名乗り出てくれよ~」


「ちょっと、壱河君。言い掛けているじゃないの。まだ弐宮君とは決まっていないわよ、ふふふ」


 しかもこの命令、どこかで既視感があると思ったら、完全にビンタゲームじゃないか。ビンタなしのビンタゲーム。ただの恥ずかしいやつじゃないか。


「くうう、Dは僕だよ……っ」


「あら。そうだったの? ふふ、連続ボーナスで何かあげましょうか?」


「要らないよ。五反田さん……僕が王さまになったら、倍に返してあげるよ」


「それは別に構わないのだけれど、その前にあなたには命令を受けてもらうわっ」


 余裕のある表情からして、賢一はCじゃないらしい。この時点で辱めを受けることは確実。五反田さんが望む展開になってしまう。僕は二度も神に愛されない。


「なあ、四葉。お前のくじはなんだ?」


「えっ、ワタシ? えへへ。ワタシはね~」


 今のところCの候補、つまり僕が褒めないといけない相手は2通り。四葉さんか、なつ。言いやすい相手だと、なつがいいけど、少しだけ気恥ずかしくもある。


「じゃーん。Aだよ!! 賢一君は何だったあ?」


「オ、オレはBだけど……ってことは、三沢がCか?」


「う、うん……そうだよ。わたしがC、だよぅ」


 先ほどから調子が悪そうに俯いているなつが小さく頷く。運転中のバスのなかだから乗り物酔いでもしたのだろうか。なんだかとても申し訳ない。

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