第34話

 それからしばらくして、俯いた状態でなつが戻ってきた。いっぽうで廿六木さんは落ち着き払っていた。タキシードが映えている。彼もまたイケメンだった。


「あの、雄二……」


「どうしたの、なつ?」


 向かい合っているはずなのに、なぜだか視線が重ならない。なつが目線を下げて俯いているからだ。何やら言いたそうにしているけど、どうしたのだろう。


「わたしがこれを管理するから、使いたくなったらいつでも言ってね……っ‼︎」


「え、うん……分かった。食べたくなったら、いつでも言うよ」


 コンソメの素を使いたくなるときなんて、めったにない気がするけど。それが扱われている料理なんて、片手で数えるくらいしか知らないし。


 でもなつが作ってくれるというのなら、僕は喜んで食べてみたい。なつが料理できるのは知っていたけど、なつが作ってくれたものを食べる機会は意外となかったような。


「た、食べ……⁉︎ もう、雄二のバカ……!」


「ええ、なんで……?」


 ここまでなつに拒絶されたのは初めてだ。なつは顔を赤くするくらい怒っている。なつが作った料理を食べたいと言ってしまったのが、いけなかったのだろうか。


「さすがは雄二だ……畏敬の念すら抱くぜ、このレベルなら」


「ふふ、青春としか言いようがありませんね。これは完全にわたくしのお陰ですね」


 男性陣は相変わらずよく分からないことを言っている。まったく、何なんだ。僕ひとりではどうすることもできなくって、ため息混じりに暗い空を見上げた。

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