第25話

「けっきょくのところ、どっちなの? ふたりは付き合っているの?」


「だから付き合っていないって。キスとかっていうのは誤解なんだよ!」


「……誤解?」


 賢一となつがふたりで抱き合っている姿を目撃したのは、この僕だ。確かにふたりは密着し合っていて、さらに唇まで重ねていた。これを嘘だとするには、さすがに無理があり過ぎる。


「委員の仕事で遅くなるっていう、雄二を待っていたあの日――昨日の放課後のことだけど、オレは三沢と一緒に教室で、確かにお前の帰りを待っていたんだ」


 僕らは何をするにも三人一緒で、お互いに部活動等がない時は、帰り道は違えど学校を出るまでは常にひと塊として、行動を共にしていた。あの日もそうだった。


 わざわざ僕の用事が終わるまで、ふたりは待っていてくれると言ってくれて、だから僕はそんなふたりを信じて、急に入った図書委員の会議へ行ったのだ。


「それで、特に話すこともなくなって退屈していたとき、暇つぶしに時間割表の画びょうを抜き差ししていたら指に刺さって、面白いくらい血が出たんだよ」


「うわ、痛そう……というか、高校生にもなって、そんな幼稚なことして怪我するなんてアホでしかないわね。それで、どうしたの? 治療はしたの?」


「いや、出血の割に傷は大したことないって思ってたんだけど、そうしたら三沢がいきなり俺の指を……」


「指を?」


「何というか、その。血が出ている指を急に舐め始めて。オレ、びっくりしちゃって……舐められているあいだは声が出なかったんだよ」


 ちらっとなつのほうを見る。彼女は悪びれる様子もなく、舌を先端だけ出して冗談みたいに笑っていた。それがどんな意図を含んでいるのか、僕は知らない。


「それで三沢が、ドアの窓から雄二が見えるって言うもんだから、見たら本当に居て。そうしたらいきなり、本格的に指を舐め出して……」 


「『雄二には気付かない振りして』って言ったんだよぅ。そのほうが面白いかなって。だからあえて、賢一くんの指が見えないようなアングルで舐めたし、抱き着くことで、あたかもふたりがキスしてるように見える風にしたんだよぅ」


「……ええと、それはいったい、何のために?」


 本気で分からなかった。彼女とは何十年も幼馴染として傍に居たつもりだった。だけど、僕にそんなことを誤解させて、いったいなんの利益があるというのだろう。

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