第16話

 特に僕の歯を軋ませるのは、賢一がこれをほとんど無意識的に行っているということだ。つまり彼は天然で気障な台詞を言える、自然的イケメンなのだ。


 だから僕は、そんなふたりのいちゃつく姿を見て、遠い過去に想いを馳せた。今はもう真っ黒になった、思い出す意味もない黒塗りのアルバムを。


 それからも続くふたりの、はちみつみたいに甘い時間に僕は耐え切れなくなって、つい目を背けた。ひとりで、今度発売するゲームを頭の中で遊ぶ妄想をした。


「んー。賢一くんの良いところ……カッコイイとか?」


「そんなことないだろ。オレがカッコ良かったら世の中の男子は全員そうだろ」


「じゃあ、えっと……やさしいところ、かな?」


「やさしい、か? オレ的には三沢のほうがやさしいと思うぞ。性別関係なしに話しかけてくれるところとかな」


「そ、そう? わたしは別にそういうつもりはないんだけどな」


 妄想世界に侵入してくる言葉を聞き流して、僕はひとり、ゲームに没頭する。妄想に依存しているとチャイムが鳴って、賢一となつはビンタゲームを止め、


「あ、もうチャイムか。楽しい時間は過ぎるのが早いな。またな、ふたりとも」


「今度は違う組み合わせでやってもいいかもね♪ じゃあ、またね~」


 帰り際にふたりはそんなことを笑いながら言った。微笑みを見せる相手を間違えて。なのになんだか僕は嬉しくなって、同じような笑顔をふたりに向けていた。

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