第15話

 五反田さんと話しているうちにいつの間にかチャイムが鳴り、授業が終わった。板書できていないところはあとで近くの人から借りることにする。


 そして、またもや賢一となつが退屈凌ぎとしてやってきた。ビンタゲームを流行らせたいと意気込むのはいいけど、なにも僕の目の前でいちゃつかないでほしい。


「じゃあ、壱河くんとなつでビンタゲームをやってみましょうか。さて、弐宮くん。あたしたちはいちおう経験者だし、ふたりの行く末を見守りましょう」


「そ、そうだね。ふたりがどんなプレーをするのか楽しみだよ」


 といっても、互いに互いがビンタするだけの時間でしかない。本音を言ってしまえば、こんなことは高校生が集まってするべきことではないのだろう。


 だとして、そこに意味を見出せなくても、僕と五反田さんが先生の話を聞かずに殴り合いをしていた理由を誤魔化せられたら、もはやそれだけでいい。


 ついでに、ふたりが恋人だという確証を掴むことができたら、僕はふたりから距離を置く理由を得ることができる。今はただふたりのビンタを見守るだけだ。


「えっと、それじゃあ始めるよぅ。まずは相手の頬に手を……」


「おお、三沢の手、ちょっと冷たいな。冷え症なのか?」


「あ、うん、ごめんね。やっぱりやめよっか」


 そう言って手を引っ込めようとするなつの手を、賢一は引き寄せて再び自分の頬に宛がう。これを自然にできる男が、まさか現実に居たことに衝撃を受けた。


「気にするなよ。今はまだ春だけど、暑がりのオレにはちょうどいい手だよ」


「あ、ありがとう。賢一くんの手は大きくて、それに温かいねっ」


 またしても気障な台詞を吐く賢一に、なつは頬を紅潮させた。きっと彼女の上のステータスウィンドウにあるハートマークのメーターが少し上昇したのだろう。


 そんなものが現実にあって可視化できていたら、賢一がやさしく声を掛けただけで、あらゆる女の子の好感度メーターは一段階以上も上昇している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る