第12話

「えっと、髪が綺麗」


「アウト。さいきん艶が足りないのよね」


「じゃあ、肌が白くて綺麗」


「それもアウトね。さいきん夜更かしばっかりだからイマイチなのよ」


「だったら、爪が綺麗」


「スリーアウト。あなた、わざと? 被虐心を満たしたいのなら、ちゃんとしたお店でお金を払ったうえで、そういうサービスを受けなさいよ。ここは学校よ」


 何を言ってもアウトで、アウトの度に乾いた音が頬を刺激する。もう今日だけで一生ぶんのビンタを受けた気がしてならない。


「というか、綺麗ってばかり言っているけれど、弐宮くん。あなたはあたしのことを外見でしか判断しないの? どこの風俗嬢よ?」


「でも綺麗だというのは嘘じゃないよ。美容とか化粧品のことはよく分からないけど、傍から見ても五反田さんは綺麗だと思うし。そうだよね、賢一」


 あまり頼りたくはないけど、賢一に無理やり同意を促す。同じ男子からの視点が欲しかったし、五反田さんとふたりきりの空気が耐えられなかった。


「あ、ああ。オレもクラスの中ではトップくらいに美人だと思うぞ」


「そんなこと、ないわよ。煽てるのが上手よね、まったく……」


「冗談なんかじゃないぞ。五反田はもう少し自信を持てよ。そうすればきっと、もっと綺麗になるかもな。クール系な美人ってけっこうオレ、タイプなんだよ」


「も、もう……そんなに言ったって、何もあげないわよ」


 求めていた以上の同意が返ってきて少し引いた。まさか賢一がラブコメ主人公さながらの、気障な台詞を吐く男だったとは。引いた。疎外感を覚えるほどに。


 頬を仄かに赤く染め、目線を下にする五反田さんもなんだか、ラブコメのヒロインさながらの反応をしていて、僕はとても驚いた。この空間だけおかしい。

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