第11話

 五反田さんとの小声会議を終え、彼女考案の謎のゲームをさっそくやることになった。ギャラリーには賢一となつが居るせいもあって、緊張感がある。


「ふたりとも、よく見ていなさい。まずは相手プレイヤーの頬に手をセットするの。自分が左手なら相手は右というように、交差する形が望ましいわね」


「ふむふむ。俗に言うアシンメトリーだね」


 よくもまあ、次から次へと適当な方便が思いつくものだ。もはやビンタゲーム協会の会長を名乗ってもいいくらいの貫録が、彼女にはあると言ってもいい。


「それで、次はいよいよ良いところを言う合戦か?」


「その前に、開会宣言をしないと不戦敗になるわ。意外と厳しいのよ、審判が」


「審判? このゲームには審判が居るの?」


「あ、でもそれはグローバルルールだったわね。いまはただの遊びだから省かせてもらうわね」


 ゲームをやることになった当初は、窮地に立たされたみたいに青白い顔をしていた五反田さんだったけど、意外と楽しそうで良かった。


 彼女の頬に手を宛がい、同時に彼女の手も僕の頬に触れられた。そしてお互いに見つめ合う光景は、先ほどのビンタとは違った恥ずかしさがある。


「それじゃあ、ビンタゲームを始めるわね。先も言ったけど、自分が良いことだと思っていても、相手にとっては良くないことの場合があるから気を付けてね」


「わかった。でもお互いに嘘を吐くのは止めにしようね。女の子にビンタするのはできるなら、もうしたくないからさ」


 ビンタされるのは一向に構わない――僕にそういう変わった趣味がある訳ではない――けど、こちらがビンタするとなると、やはり後ろめたい気持ちにさせられる。単純に周りの目が気になるだけかもしれないけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る