第10話
「え、えっと……たとえば、あたしの相手が弐宮くんだとしたら、お互いの頬に手を当てながら、順番にその人の良いところを言い合うのよ。順番に言い合って、良いところじゃないなと思ったら、相手にビンタするの。それがビンタゲーム」
即席でルールを作ったのなら、五反田さんはすごい人なのだけど、このルールで巷が盛り上がっているとは思えない。身も蓋もない言い方をするとクソゲーだ。
でも僕はふたりが納得してくれるなら、それでいいと思っている。たとえクソゲーだとして、ふたりの興味や関心がそちらに行ってくれるのなら。
「意外とシンプルなルールなんだね! でもちょっと口頭の説明だけだと心許ないから、参考までにちょっとふたりとも、再現してみてくれる?」
「……え?」
「だって、わたしと賢一くんがやるには経験が浅いからさ。経験者のふたりがプレイしているところを今度は間近で見てみたいんだよ。ね、お願い♪」
そしてなつは続けざまに『慣れるより習えって言うじゃない』なんて間違った慣用句を言い放った。意味のない嘘を吐いた結果がこれだ。意味のないビンタをもう一度しなければいけないらしい。なんというか、今日は厄日なのかもしれない。
再び僕は五反田さんと顔を見合わせる。彼女が即席で作ったルールを基に、どこかも分からない巷で大流行しているビンタゲームをやらされることになった。
「ごめんなさい、弐宮くん。あたしの発想力ではこれが限界だったわ。自分でも思ったけど、ビンタゲームってなんなの? なんでここまで話が膨らんだの?」
「それは僕も思ったよ。でもあのことを素直に白状してしまったら、キミはもちろん、僕だって刑務所行きだよ。だってもう僕らは一蓮托生みたいなものだから」
「い、一蓮托生!? それってつまり――」
五反田さんの提案に乗っかった時点で、僕は彼女と同じように、変態の烙印を押されるのだから。でもまさか、彼女のビンタ欲を満たすだけの行為がここまで膨らむなんて。
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