第2話

 外の雀の鳴き声で目を覚ました僕は、すぐに昨日のあれを思い出した。幼馴染である女の子――三沢なつと、親友の男の子――壱河賢一が教室でキスをして抱き合っていた光景を。


 悪夢かなにかだとも思った。でもあれこそが現実だ。内側からこみあげてくる色んな感情が訴えてくる。しばらく僕はベッドから抜け出せずにいた。


雄二ゆうじ、起きてたの? それなら返事をして頂戴。もうご飯できてるわよ」


「ああ、母さん。ごめん、ちょっとぼうっとしてたよ」


 気が付くと、部屋のドアを開けて母さんが顔を覗かせていた。学校へ行く支度を済ませると僕は、母さんのあとを追って、リビングへと歩を進ませる。


 ご飯を食べ終わって、歯を磨く。それも済ませると、僕は家を出て学校に向かうことにした。いつもの通学路ではなく、裏路地を通って彼らに会わないように努める。


 彼らは僕が隠れて見ていたことを知らない。だけど僕は彼らがそういう関係なのだと知ってしまった。友だちと認識していたふたりが遠いところに行ってしまったのは少し悲しいけど、彼らにとって僕はきっと邪魔な存在なのも事実だった。


「おっす、おっす。雄二、こんなところで会うなんて奇遇だな!」


「うわ、賢一。どうして……?」


 背後から声がして振り返ると、そこには賢一がいた。壱河賢一。僕の親友で、昨日なつと激しいキスをしていた男。要するに、なつの恋人になった男。


「いや、たまにはこの道も通ってみようかと思って。三沢は一緒じゃないのか?」


「なつ? そんなの、お前がいちばん知ってることだろ」


「どうしてオレが? オレよりかは幼馴染のお前のほうが詳しいだろうに」


 ――幼馴染、か。


 小さい頃から一緒で、普通の友だちよりも仲が良かったことは否定しない。でもその称号は、もはやただの過去でしかない。今まで抱え込んだ感情や想いはすべて僕の心を蝕んでいる。これ以上僕は、賢一と一緒に居ることはできない。

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