第33話 神も忘れてました。
そういえばと、天樹姫は龍の言った通り初対面の時お互いに挨拶を交わしてなかったのを思い出した。
という訳でお互いに名乗り合った。が、そこで一つ重大――いや、天樹姫にとってはあまり重大ではなかった――なことが分かった。龍の名はシュメーロンという数分前に聞いた名前と一緒だったのだ。
「あらあら、龍さんがシュメーロンだったんですね?」
「おや?私の名をご存じで?」
そう聞かれたので、天樹姫は森の中を眺めていたら南の方に奇妙な集団が調査のようなことをしており、雨が降ったかと思ったら一様にして空を指してシュメーロンだと喚いていたことを話す。
シュメーロンは話を聞くと心当たりがあったようで、「あぁ」と軽く声を上げた。
「なるほど、帝国の者ですね。」
「やっぱり。」
「ま、あまり気にする必要はないでしょう。」
「ですね。」
これがジークルト等魔国の連中かレッロたちであれば政治的な話を真剣な表情で展開したのであろうが、残念ながらこの場にいるのはこの世の政治に全くと言って興味のない天女と龍であった。彼女らにとって帝国の調査は些事に過ぎなかった。
「ところでシュメーロンさんはどうしてここへ?」
「いえ、この辺で強力な力を感じたので確認をしに来たんですが、まさかあなたの住処に着くとは思いませんでしたよ。」
「強力な力……?」
天樹姫には強力な力というワードに一切心当たりがなかった。そう呼べるほどの力をこの世界に来てから使ったつもりは微塵もなかった故にだ。
困惑する天樹姫を目にし、シュメーロンも同様に困惑する。この間会った天樹姫は、晴らすことのできない雨を無理やり晴らすという異常な力を見せつけた。だからこそ、シュメーロンは天樹姫がいたことで、この間感じ取った力は彼女に由来するものだと納得した……はずなのに。当人心当たりなし。そしてそこに救いの手が。
「我が君ー!わたちを復活させちぇいただいた時のお力ではー?」
天樹姫の困惑に気付いたリフィアが天樹姫の近くの地面から顔を出し2人が求めていたであろう情報を提供した。
「え?あれなんですか?確かに気合入れましたけど……?」
「む、世界樹妖精ですか。幾年ぶりに見ましたね。……ん?待ってアマギキさん待って世界樹妖精を復活させた?」
「あ、シュメーロン様!わたち元はただのドライアドでちゅ。」
「???」
リフィアによってもたらされた情報にシュメーロンは更に困惑する。何百年と生きてきた彼だが、世界樹妖精とは世界樹より生まれる突然変異したドライアドでただのドライアドが世界樹妖精に進化するなんて聞いたこともなかったのだ。
「止めた。私は考えるのを止めたよ。力の正体がアマギキさんと分かったということだけでいいよもう。それ以外はもう、貴女だからという理由で納得するよ。」
「あらそうですか。」
自分が何を成しえたか理解していない天樹姫は何でもないようにそう返した。そんな反応にシュメーロンは苦笑いを浮かべるほかなかった。
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「そうだ、シュメーロンさん。折角いらしたんですからお茶でも如何です?」
「お茶?よろしいので?」
「ふふ、何もせずに帰らせてしまうのは私、好きじゃないんですよ。」
「ではお言葉に甘えさせていただきますか。あ、待ってくださいね?ふんっ!」
気合を込めるような声を上げたかと思うと、シュメーロンは光を放ちその体はみるみると小さく……天樹姫と同じ大きさまで縮まった。
「……人化するかと思いました。」
「ん?何か?」
「いえ?何でもありませんよ。ではどうぞ。」
当たり前の展開だと思っていたことが起きなかったことに天樹姫は少し、ほんの少しがっかりしたがすぐにそんなことを忘れシュメーロンを中に案内した。
天樹姫がいつも食事をとる部屋に案内されたシュメーロンは物珍し気に辺りを見渡す。
龍ではあるシュメーロンだが、他種族の友はそれなりにいるし彼らの家にも赴くことが何度かあった。それぞれに色んな特色があったが、天樹姫の住処はそのどれにも属さない不思議な魅力にあふれていた。
「これは……まるで別世界ですね。」
その感想はあながち間違いではない。
思ったままの感想を口にした所で、急須と湯呑と煎餅が盛り付けられた皿をお盆の上に乗っけて天樹姫が奥からやってきた。
「あらあら、そんなに珍しいですか?」
「えぇもう!しかし見たところ、ここはアマギキさんが住むだけの所ではないのでは?」
「えぇ、ここは神社と言いましてね。神を奉る施設なんですよ。私は管理人みたいなものですよ。」
「ほう、神社!神を奉るとは……教会みたいですね。」
「そうですね、近い施設だと思ってくれれば。」
「名前はあるんですか?」
「……あ。」
「どうしました?」
何気ないシュメーロンの一言。
その一言で天樹姫にまるで稲妻が落ちたかのような衝撃が走る。
神 社 の 名 前 つ け て な か っ た
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