第26話 NOT 神 YES 天女

「いやー困りますよリディリさん。私なんかが神扱いされては、天稲大神様並び他の神様に申し訳ないですって。私はしがない天女なんですから。」


 苦笑いを浮かべながら手を振るう天樹姫は、さながらおばちゃんのようだ。

 神とは違うとは言われ、リディリは茫然としたものの、何とか気を取り直し言葉を紡ぐ。


「だがその力は神の如く――」

「神じゃありませんて。Iam天女ですよ。」

「いや待って2人とも。このままじゃ堂々巡りになりそうだ。……アマギキさん。君は自分のことを天女と言ったね。その天女ってものを聞いてもいいかな?」


 堂々巡りになり、イライラした天樹姫がその人知を超えた力で何をしでかすか恐れたジークルトが2人の間に割って入った。事実、ジークルトの判断は正しく、天樹姫の笑顔からどこか怒気のようなものが滲み出ていた。


「そうですねぇ、納得してもらうには説明する必要がありそうですね。天女とは――」


 天女とは簡単に言えば天に住まう神に仕える女性のことを言う。見た目は、容姿端麗ということを除けば、人間と差異はない。あえて違う点を言うのであれば、羽衣と言われる布を常に装備しているというところか。ただ人間と差異がないというのは見た目だけの話で中身は、神とまではいかずとも人知を超えているのだ。

 羽衣には天女を浮かせる力があり、それを失うと天に帰れなくなる。まぁ、天樹姫ほどの天女になれば羽衣なくとも浮けるのだが、天女の制服のようなものなので常に着用している。

 余談だが、宇宙人説もあるがこの作品の天女は正真正銘神の使いである。


「――という存在です。」

「つまり天使ということかい?」

「うーん、天使とは違いますね。こっちの世界では知らないけど、天使は小間使いですよ?」


 天樹姫の説明に納得したのか、リディリ含め魔王一行は納得いったように頷いた。が、すぐに全員がある言葉に引っかかった。


「「「「「こっちの世界?」」」」」

「あ、はい。異世界から来ました天女です。」


 本日一番の爆弾が落とされた。

 勿論天樹姫に悪気はない。レッロ・ツェルジェノという転生者を既に知っているので転生者もしくは転移者は、この世界に普通に存在しているものかと思っていた。

 結果、そんなことはなかったのだが。


「隊長、私もう疲れました。」

「言うな。俺も頭が痛くなってきたぞ……」


 天樹姫の言葉を疑う者はいなかった。これは鑑定スキルだとか、嘘を見抜くスキルがあるからという訳でなく、直感で天樹姫が嘘をついていないのだと理解しているのだ。だからこそ、全員疲れた顔しているわけだ。


「では、この話も終わりにしますか。結論として、私は別世界の神の部下でしたーってことで。」

「……分かった。アマギキ様がそう言うのであれば私もこれ以上何も言わない。神ではないとはいえ神に近しい存在と分かれば十分だ。」


 本当は異世界のことをもっと聞いてみたいリディリなのだが、尊ぶべき存在だと理解したので、これ以上天樹姫の琴線に触れないため引き下がった。

 全員が、力の抜けた表情になっていく中で、ジークルトだけが、考えるそぶりをしたのち天樹姫に聞いた。


「アマギキさん。魔王として君の――異世界から来た神に近しい存在と言うのは中々に捨て置けないんだけどさ。君はこの世界で何をするつもりなのかな?」

「何も?あ、美味しいものが食べたいですねぇ、後お酒も。」


 にへらと笑う天樹姫に対して、ジークルトは笑みを浮かべず、目を逸らさずに天樹姫に向けて言葉を続ける。


「この世界に住まうものを扇動して何かをさせようかなんてことは?」

「そういうの、うちの世界じゃ御法度なんですよ?"神は見ている者"。地に住まうものに対してほんの少しの手助けはすれど介入すべきではないのです。私は天女ですけど。」

「……僕を救ったのは?」

「ですから手助けです。あなたにじゃありませんよ?グライアさんにです。あなたが助かったのは、グライアさんとリディリさんが頑張ったからで、私は何もしてません。運よく魔癒草を育てただけの事。」


 その言葉は、言い換えればあなたを助けるつもりは私にはなかった。ということだ。たまたま救われたのが、魔王であるジークルトなだけであって天樹姫にとって誰かが救われたなんて割とどうでもよかったのだ。

 それを聞き、ほっと胸をなでおろすジークルト。ここで世界を滅ぼすつもりだなんて言われたら勿論歯向かうつもりだった。だが、力量も見えない未知の異世界の天女に勝てるのかと不安はあった。だが、杞憂だった。

 天樹姫にはそういったことは興味はないみたいだ。今後変わるかもしれないが、それはこちら側の世界の住人が彼女に対して何かしたときだろう。

 ……ジークルトは、ある一つの国を思い浮かべ、天樹姫の事は内密にするように心に決めた。勿論同行者たちにも箝口令を引くつもりだ。


「さ、ではお話も終わったことですし、ご飯にでもしましょうか。皆さん、何か食べたいものはありますか?」


 パンと手を叩き、全員の注目を集める天樹姫。ご飯という言葉に、一部の者の腹の虫が騒いだのは言うまでもない。


「ご飯頂けるんですか!?」

「ありがたいです……緊張してお腹ペコペコです。」

「アマギキ様にご馳走して頂くなんて……いいのか?」

「であればアマギキ殿!俺はあの時のおにぎりが食べたいのだが!是非とも!」

「それいいねぇ、グライアだけずるいと思っていたんだ。」


 ジークルトは、とりあえず一旦懸念は置くことにし、食事を戴くことにした。この瞬間を楽しまねばもったいないと思いながら。


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天女の説明はWikipediaを参考にしましたー

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