第25話 リディリの証言

 リディリの天樹姫に対する神発言に、その場の空気が凍り付いた。アリスは口に両手を当て、グライアは顎が外れるほど口を大きく開き、マハータは何を言っているのかいまだ理解できずにいた。そして、ジークルトは……静止した。

 リディリは普段このようなことを言うような人物ではないのは全員知っている。この世界には神がいると言われているが、永い時を経て生きているリディリにとって今まで生きてきた中で見たことのない神の存在など信じていなかった。

 そんな彼女がいきなり天樹姫を神だと言う。呆気にとられないわけがない。

 4人同様に僅かながらも驚いた天樹姫はとりあえず聞いてみることにした。


「……何故私が神だと思うんです?」

「一番の理由は、貴女が神だと考えなければ説明がつかないことだ。まず、ここに来るまでの石の道。あれに乗ってから、魔物の気配が一切感じられなくなった。そこで、道を観察したが一切分からなかった!何かの力が作用しているところは何となくだが分かった。だが、その力が分からない!少なくとも魔力ではない。」


 魔族の国でも、それに近い研究はされていた。魔物が寄らない道を作ることができれば、誰もが安心して道を通うことができるからだ。しかし、その研究はうまくいっていない。魔物を寄らせない魔法を行使することは可能なのだが、それを持続させるには相当の魔力がいるため、現実的とされていない。


「次にこの魔癒草の畑!こんな事象はあり得てはならないんだ。魔癒草は個体によって土や温度などの環境の好みが異なる植物。それがこんなに生えるものか!神に愛された土地でもないとあり得ない!……そして最後に貴女だ、アマギキ様。」

「私ですか?」


 心当たりがないので、とりあえず聞き返す天樹姫。神だということは一旦置いておいて、リディリの話を聞くつもりだ。


「私たちがここに訪れたとき、貴女はいきなり現れた。私やアリス様ならば反応できなくても仕方ないだろう。だが貴女はマハータは疎か、グライアや魔王様までも気付かせずに現れた。明らかに異常だ。」

「まぁそうだね。恥ずかしながら僕も気付かなかったのは事実だ。」

「……俺は2回目だな。武人としては悲しいがな。」


 ジークルトもグライアも油断していたわけではない。特にグライアは今度こそ気付いてやろうと内心今度こそ天樹姫を捉えてやろうと勢いづいていた。まぁ失敗に終わったわけだが。他の連中同様驚いていたが。

 ジークルトも魔王だけあって索敵能力も十分にあった。いや、一行の中では随一といったところだろう。本当は守られる必要のないほどの強者であるジークルトでさえ気づかなかった。ジークルト自身もそれ故に天樹姫の正体を勘繰っていたのは事実だ。神とまでは思いつかなかったが。


「私には鑑定スキルがある。――まぁ、研究者として生きていくうえでいつの間にか生えてきたのだが……それで鑑定してみてどうだ。貴女は普通の人族……いや、人族の赤ん坊並みに弱いと出た。」

「赤ん坊並み……いや、確かに一見弱そうですけどそこまでいいます?リディリ女史ぃ……」

「言うさ。事実だからな。」


 ま、そうですよね。と天樹姫は心の中で思った。以前、レッロにも鑑定されたことはあり、その結果も聞いている。……まぁ赤ん坊並みと言われて落ち込まなかったと言えば嘘になる。アコもウスケも天樹姫の「え、そこまで弱いんですか?」という声は聞こえていた。


「スキルもない、赤ん坊並みの力しか有しないそんな人間が、こんな森で生きていけるか?無理だ!どんな大富豪でも、どんな魔術師でも、こんな訳も分からない素晴らしい建築物をこさえられるわけがない!……以上が私の見解だ。どうだ、アマギキ様。これでも貴女が神ではないと、言いますか?」


 一気に喋ったためか、リディリの肩は大きく揺れている。そしてその目は確固たる自信を持っている。一行も何も言わず、天樹姫の返答を待っている。

 その視線を受けた天樹姫は、いつも通りのほほえみを取り戻し、こう告げた――


「神ではないです。」

「っ!」


 誰が息を呑んだか、定かではない。

 しかし、天樹姫はそれを意に介さず言葉を続けた。


「私は、天女ですよ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る