第18話 魔なる来訪者?

よく考えたらクマさんが魔族理解してないかなと思いましたので、前回の最後のセリフを変更しました。

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 ツェルジェノ領から戻った天樹姫は、留守番を頼んでいたブラックジェノベアーから不在時の報告を受けていた。基本的に何もなかったようだが、少し気になる報告があった。

 ブラックジェノベアーが直接見たわけでなく、匂いや気配が漂ってきたのだとか。流石はルマダ達が恐れるほどの魔物だ。今の今まで番犬ならぬ番熊になっていたわけだが。


「じゃあクマさん、留守番のお礼です。どうぞ持ってってくださいなー」


 侵入者がいたとして、別に天樹姫は排除を依頼していない。依頼したのはあくまで神社の留守番である。そんな訳で聞くこと聞いたら報酬タイムだ。

 天樹姫が懐から取り出したるは水の入った透明な箱。その中には湖で釣りに釣った魚がそれはもう弱った様子も見せず、元気に泳いでいた。ブラックジェノベアーは、箱の材質は良く分からなかったが、悪いものではないとは分かっているので、嬉々として箱を受け取り鳥居から森へと戻っていった。きっと、彼の住処は大騒ぎだろう。


「グルァウ!」

「いえいえ、こちらこそお世話になりました。また何かあったらお願いしますね。」


 了解と言わんばかりに吼えるブラックジェノベアーは片手で箱を担ぐと何も持ってない手で大きく手を振り、森の中へと姿を消した。

 それを見送った天樹姫は別段、侵入者に対して何かしようと思うでもなく、1日ぶりの我が家もとい我が神社でだらだらすべく本殿へと向かったのであった。天女は本日もマイペースであった。



 天樹姫が本殿に戻った時間と同刻、森の中を一人の黒ずくめの男が羽虫一匹も逃さないとばかりに辺りを見渡しながら前進していた。

 その男のこめかみには羊を連想させるような巻き角が生えていた。だからと言って羊の獣人かと言われるとそうではなく、彼はこの世界で魔族と言われる存在だ。

 人族に比べ魔力と武力に長け、魔という名前を関した種族の魔族を人によっては恐れられ、またある人によっては殲滅対象とまでされている。その原因はお互いの先祖が原因なのだが、今は割愛する。


 さて、そんな魔族の黒ずくめの男だが、この森に入ったのは理由があるからだ。

 魔癒草と呼ばれる薬草の採取である。だが、使うのは黒ずくめの男ではなく、彼の仕える主だ。病に苦しむ主のため、黒ずくめの男は、実力を持つ魔族でも躊躇するこの森の探索を買って出た。実際黒ずくめの男の実力は高く、この森に潜む魔物に劣ることはなかった。……しかし魔物に勝てるからと言って目当ての魔癒草が見つかるわけでもなく、彼は数日間、森をさまよっていたのだ。


「く、そっ!この森では比較的見つかりやすいのではなかったのか!全く見つからないではないか!こうしている間にも……っ!」


 この場にいない魔癒草を探すならこの森と教えた同僚に悪態をつきながらも黒ずくめの男は目を凝らして魔癒草を探す。瞬き一瞬すら惜しいと感じるほどに目をかっひらくが、その目に目的のものは映らなかった。

 休むことなく歩き続けることによる体力の消費と主の容態を心配することでの精神の疲労により次第に黒ずくめの男の足取りが重くなる。いかに黒ずくめの男が優れた戦士であろうとも体力も精神も無限ではない。


「どこだ……魔癒草は!どこ……ん?」


 その時だ。黒ずくめの男の足が止まった。魔癒草を見つけたわけではない。が、それ以上にあり得ないものが彼の視界に入ったのだ。


「舗装されているだと?」


 確かに自分が歩いていたのは立ち入るものが少ない森のはずだ。そのはずなのに、目の前には草木一本生えず、石畳が敷き詰められたしっかりとした道がそこにあったのだ。黒ずくめの男は思わず後ろを振り向いた。が、振り向いた先は当然の如く自分の足が作ったけもの道だけだ。

 記憶をめぐらすが、少なくとも彼が知りうる中での魔族の中でこの森に住むような者はいなかったはずだ。他の種族の可能性もあるが、それでも好き好んで住む環境ではない。


「行ってみるか……」


 もしかしたら手掛かりがあるかもしれない。藁にもすがる思いで黒ずくめの男は石畳の上を歩き始めた。目指すはこの道が示す先へ

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